語り部シルヴァ

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7/12/2025, 10:57:24 AM

『風鈴の音』

窓際に吊るした風鈴が風に吹かれる。
少し値段が張ったものの、
なんとなく市販より透明な音に感じる。
つんざくような音でも鈍い音でもない調度良い音。

気が付けば目を閉じて聞いてしまうくらいには
素敵な音だと思う。
この風鈴、些細な風でも綺麗な音が出るから
今日みたいなほんとにそよかぜでも音を出してくれる。
クーラーを止めて扇風機と桶に張った水に
足を突っ込みながら感じる風鈴の音は
日本の夏と言える風情ある音ものなのだろう。

今は太陽が一番照りつける時間だが暑さも
少しはマシになった気がする。

氷が溶けた麦茶をゆっくり飲む。
結露した水がズボンに垂れたが
それすら冷たくて気持ちいいと思う真夏日のお昼時。


語り部シルヴァ

7/11/2025, 10:31:00 AM

『心だけ、逃避行』

「ほら、行っておいで。」
胸を開くとハート型の小さなロボットがぴょんと飛び降りる。
こちらを向いてきたのでゆっくりと頷くと
小さなロボットは走り出した。

僕は人間を模して作られたロボット。
臓器と呼ばれるパーツは
人間が本来持っている場所に合わせられている。
各パーツは自立していて好きなように生きている。
だから僕の仲間はパーツが常時体外に出て
暴れ回っているなんてよくある話だ。

もちろん僕らは心臓なんてなくても生きていけるし
僕の心臓のパーツは随分と大人しい。
だが外の世界に興味はあるようでこうして仕事が終わったら
基本的に外に出して好きなようにさせている。

人間にこの話をすれば
「そりゃいいな。しんどい仕事も心が自由なら気楽だろう。」
と僕と同じような死んだ目で笑っていた。

人間は大変なんだなと思う。
人間もこんなこと出来ればいいのにね。

語り部シルヴァ

7/10/2025, 10:56:49 AM

『冒険』

まだ知らない世界に足を踏み入れる。
このドキドキがたまらなく楽しい。
しかしこの新体験はいつになっても心を踊らせる。
これからも同じことを繰り返して成長していくんだろう...

今日も新しい世界へ行こうじゃないか。
そうだな...この恋愛ものとか...

「おい。連絡入れてんのに無視すんな。」
「だーって!外暑いじゃんか!
涼しい部屋でゲームするのが正義じゃん!」

新しい世界への扉を探していると友人が部屋に入ってきた。

「ほーら正義もたまには太陽の日を浴びて
健康体になりましょうね〜」

しかもカーテンを開けて部屋に日光を差し込ませる。

「ぎゃー!し、死ぬ...」
「こんなことで死なねーよ。
アイス奢ってやるから外の空気吸いに行くぞ。」
「アイスなんか家にあるから...!」
「おたかーいハーゲンダッツ。」
「よぉし外の冒険もたまにはいいよな!」
「都合良すぎるだろ...」

今回は外の地獄のような暑さの世界への冒険だ。

語り部シルヴァ

7/9/2025, 10:53:04 AM

『届いて.....』

一定のリズムで刻む心電図。
静かな病室に響く...
清潔感のある病室はどこを見ても真っ白で
自分の吐く息ですら汚しそうになって息が詰まる。

今日で何日目だかもう忘れた。
君は今日も起きる気配は無い...
けどいつか目覚めてくれると信じている。

ふと見た窓の向こうは暑そうで
家の屋根も植物も走る車たちもみんな
太陽の光を眩しく反射している。
ずっと心地良い温度が一定になっている
この病室とは大違いだろう。

「なあ、あの暑い中食べるアイスが好きって言ってただろ。
さっさと起きてアイス食べに行こうよ。」
手をそっと握っても反応は無い。

いつもそうだ。
僕の思いは君に届かない。
「君のことくらいは届いてよ...」

心電図は一定の音を病室に響かせる...
それ以外は時が止まったように静かだ。

語り部シルヴァ

7/8/2025, 11:03:24 AM

『あの日の景色』

休みの日。久しぶりに空を見上げた気がする。
夏と言えば出てきそうな空...

夏が来ると思い出すのはひまわり畑。
ギラギラした日光に立ち向かわんばかりに
ひまわりが顔を向ける。
光を受けた黄色の花びらが眩しく輝いている。
夏の湿気った風がひまわりたちを撫でて
カサカサと音を立てる。

空は青く入道雲が大きくそびえ立つ。
その一枚絵のような景色を酷く覚えている。

あの頃は何も考えずに生きてて楽しかったなあ...
今となっちゃあんな風に空を見上げることも無かった。

だから空がこんなにも青くて広がっていることを忘れていた。
ぼーっと眺めているとひまわりたちがカサカサと
音を立てているのが聞こえてきた気がした。

語り部シルヴァ

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