『心だけ、逃避行』
「ほら、行っておいで。」
胸を開くとハート型の小さなロボットがぴょんと飛び降りる。
こちらを向いてきたのでゆっくりと頷くと
小さなロボットは走り出した。
僕は人間を模して作られたロボット。
臓器と呼ばれるパーツは
人間が本来持っている場所に合わせられている。
各パーツは自立していて好きなように生きている。
だから僕の仲間はパーツが常時体外に出て
暴れ回っているなんてよくある話だ。
もちろん僕らは心臓なんてなくても生きていけるし
僕の心臓のパーツは随分と大人しい。
だが外の世界に興味はあるようでこうして仕事が終わったら
基本的に外に出して好きなようにさせている。
人間にこの話をすれば
「そりゃいいな。しんどい仕事も心が自由なら気楽だろう。」
と僕と同じような死んだ目で笑っていた。
人間は大変なんだなと思う。
人間もこんなこと出来ればいいのにね。
語り部シルヴァ
『冒険』
まだ知らない世界に足を踏み入れる。
このドキドキがたまらなく楽しい。
しかしこの新体験はいつになっても心を踊らせる。
これからも同じことを繰り返して成長していくんだろう...
今日も新しい世界へ行こうじゃないか。
そうだな...この恋愛ものとか...
「おい。連絡入れてんのに無視すんな。」
「だーって!外暑いじゃんか!
涼しい部屋でゲームするのが正義じゃん!」
新しい世界への扉を探していると友人が部屋に入ってきた。
「ほーら正義もたまには太陽の日を浴びて
健康体になりましょうね〜」
しかもカーテンを開けて部屋に日光を差し込ませる。
「ぎゃー!し、死ぬ...」
「こんなことで死なねーよ。
アイス奢ってやるから外の空気吸いに行くぞ。」
「アイスなんか家にあるから...!」
「おたかーいハーゲンダッツ。」
「よぉし外の冒険もたまにはいいよな!」
「都合良すぎるだろ...」
今回は外の地獄のような暑さの世界への冒険だ。
語り部シルヴァ
『届いて.....』
一定のリズムで刻む心電図。
静かな病室に響く...
清潔感のある病室はどこを見ても真っ白で
自分の吐く息ですら汚しそうになって息が詰まる。
今日で何日目だかもう忘れた。
君は今日も起きる気配は無い...
けどいつか目覚めてくれると信じている。
ふと見た窓の向こうは暑そうで
家の屋根も植物も走る車たちもみんな
太陽の光を眩しく反射している。
ずっと心地良い温度が一定になっている
この病室とは大違いだろう。
「なあ、あの暑い中食べるアイスが好きって言ってただろ。
さっさと起きてアイス食べに行こうよ。」
手をそっと握っても反応は無い。
いつもそうだ。
僕の思いは君に届かない。
「君のことくらいは届いてよ...」
心電図は一定の音を病室に響かせる...
それ以外は時が止まったように静かだ。
語り部シルヴァ
『あの日の景色』
休みの日。久しぶりに空を見上げた気がする。
夏と言えば出てきそうな空...
夏が来ると思い出すのはひまわり畑。
ギラギラした日光に立ち向かわんばかりに
ひまわりが顔を向ける。
光を受けた黄色の花びらが眩しく輝いている。
夏の湿気った風がひまわりたちを撫でて
カサカサと音を立てる。
空は青く入道雲が大きくそびえ立つ。
その一枚絵のような景色を酷く覚えている。
あの頃は何も考えずに生きてて楽しかったなあ...
今となっちゃあんな風に空を見上げることも無かった。
だから空がこんなにも青くて広がっていることを忘れていた。
ぼーっと眺めているとひまわりたちがカサカサと
音を立てているのが聞こえてきた気がした。
語り部シルヴァ
『願い事』
今日は七夕。じゅぎょうの終わりにたんざくに願いごとを書くことになった。
好きな願いごとを書いていいと先生に言われたけど
ほかのクラスメイトに見られたらなんて言われるかはわかっている。
だからつまんないって言われるような願いごとが一番いい。
けど願ってないことは嫌だなあ...
そう思いながらわたされたマジックでたんざくに願いごとを書く。
...いいことを思いついた。
「せんせー。まちがえちゃったからもういちまいください」
「マジックだから消えないもんね。いいよ。」
先生のきょかをもらってもう一枚取る。
本当はまちがってないけど。
さっともう一枚に願いごとを書いて机の中にかくした。
学校が終わって帰ろうとしたときにクラスメイトに声をかけられた。
「ねえ、さっきたんざく一枚持って帰ろうとしたよね?」
さいあくだ。よりによって一番見られたくない人に見られた。
「ないしょにしてあげるから願いごとおしえてよ。」
言えないからひみつにして持ってかえろうとしたのに...
この願いごとを見たら君はなんて言うかな...?
語り部シルヴァ