『クリスタル』
私は病気持ちだ。
涙が水晶に変わる病気。たまに他の宝石に変わることもある。
鑑定士に見てもらうと
一生遊んで暮らせるほどの価値があるそうだ。
両親は大喜びしていた。病気の私にいつも感謝してくれた。
けどそれは私じゃなくて水晶にだろう。
最初こそ私の病気に寄り添ってくれたけど
今じゃ私の水晶のことにしか興味を示さなくなってしまった。
私が病気を治せばお母さんはどんな顔をするかな。
お父さんはなんて言うかな...
涙は真っ赤なルビーに変わった。
語り部シルヴァ
『夏の匂い』
ジリジリと照り付ける太陽にアスファルトが焼ける。
靴に裏から伝わる熱がいかに暑いかを物語る。
湿気った風は体温を下げるどころか熱を籠らせる。
駅から出て数分なのにシャツが汗を吸って少しベタつく。
今日は自転車の方が良かったな...湿気った風が妙に匂う。
よく匂う...最近どっかで嗅いだことあるような...
悩んでいると空が轟く。
空を見上げた瞬間太陽が顔を隠し、雨が降ってきた。
夕立だ。あの匂いの正体は夕立だった。
語り部シルヴァ
『カーテン』
何度も見たことのある映画。
今は海賊がお宝の鍵を見つけて物語はクライマックス。
視界の隅にはエアコンと
扇風機に吹かれて優しく揺れるカーテン。
太陽の光を浴びて白く眩しく輝いている。
暑苦しいはずなのにお互いピタリとくっつき
じっと映画を見ている。
夢か現実かなんてカーテンの裏から見る影のように
ぼんやりとしている。
どっちだっていい。この暑苦しさを感じるよりも湧き上がる幸せにはお互い抗えない。
同じ映画に揺れるカーテン。
夏の暑苦しさは燃えるような愛にかき消される。
そんな日常のワンシーン。
そんなひと夏のはじまり。
語り部シルヴァ
『青く深く』
ゆらゆらと揺れる空はどんどん濃い青色へと染まっていく。
ギラギラと光る太陽がぼやけていく。
静かだ。何もかもが波に飲まれ海が飲み込んでいったようだ。
息苦しいはずなのに不思議と心地よい。
海が自分の体をゆりかごの赤ちゃんのように
ゆっくりゆらゆら揺らされているからだろうか。
海面へ行かないと。
けど...暑いのはやだなあ。
ここはずっとひんやりしてて気持ちいい。
このまま...このまま...
海に体を預けて目を瞑ろうとするとつんざくようなアラームが聞こえたと思えば体をグイッと引っ張られた。
気がつけば滝のような汗が流れ
部屋がジャングルのような蒸し暑さに包まれていた。
暑苦しさに目が覚めたようでスマホで時間を確認する。
「...シャワー浴びなきゃ。」
今日も仕事だ。あの空間にずっといたかった。
語り部シルヴァ
『夏の気配』
窓を開けると熱気が入ってくる。
洗濯物がすぐ乾きそうだが
暑くなりすぎて汗も滲みそうな天気だ。
週間天気予報を見ても雨が降る様子は無さそうだ。
最近気がつけば梅雨が終わって夏がすぐそこまで来ている。
雨が嫌いな自分にとっては好都合だが
暑い日がずっと続くのもあまり好きじゃない。
しかもジメジメとした暑さがやってくるならなおのことだ。
そう思いながら布団を干す。
それだけで少し汗をかいてしまった。
ベランダから見る空は澄んだ青に大きな入道雲が
どっしりと構えている。
暑いな...6月ももうすぐ終わりだ。
語り部シルヴァ