『糸』
君と私はずっと繋がっている。
昔君がいじめっ子から助けてくれてから私たちは始まった。
喧嘩したりもあったけど、私たちは絡み合えば合うほど
仲良くなっていく気がする。
それこそ腐れ縁かもしれない。
けれどどんな仲であっても私たちは離れられないと思う。
こんなこと言えば君はなんて言うだろうね。
きっと腐れ縁のことに
"そんなことない!"って全力で否定したり、
"だな。ぜっっったいに切れない何かで結ばれてる...
腐れ縁じゃなくて鎖縁ってね.."
なんてジョークを挟んでフォローしてくれるだろう。
実際に聞けばいいかもしれないけど、そんなことはしない。
君の言葉を借りるなら鎖縁かもしれないこの関係は
少しの歪みでも切れてしまうかもしれないから。
君と私は鎖のような、糸のような関係だから...
語り部シルヴァ
『届かないのに』
夕日に向かって手を伸ばす。
届きもしないのはわかってる。
それでも僕含めみんな通る道だと思ってる。
あの夕日はなんだろうか。
夢なのか憧れなのか...
僕はみんながやってるからやってみただけ。
夕日の逆光で手の輪郭が鮮明に見える。
部活のせいもあって輪郭はボコボコだ。
伸ばした手をギュッと握る。
夕日を掴めるわけもなく
ただただ暑くなった空気を掴んだだけだった。
語り部シルヴァ
『記憶の地図』
棚を掃除していると折りたたまれた紙がカサっと落ちてきた。
一瞬身に覚えなのないものだったが
持ち上げようと触れた瞬間記憶が蘇る。
紙を広げると自分ともう一人が書いた地図だった。
お気に入りのカフェや良く行くゲーセン。
お揃いの服を買いに行った洋服屋。
2人がどれだけ歳をとってもこの思い出を忘れないように。
そこで彩られた日々を色褪せないように...
今じゃなんの意味も無い紙切れだ。
躊躇したが紙をぐしゃぐしゃにして
ゴミ箱に捨てて掃除を続けた。
語り部シルヴァ
『マグカップ』
ガシャンと大きな音を立ててマグカップが割れる。
飲み物は幸い入っていなかったが
陶器の破片がかなり散らばった。
小さい頃からずっと使っていたから
そろそろ壊れるかなと思っていたが本当に急に壊れた。
陶器の欠片を一つ一つつまみあげる。
なんだか今まで使ってきた思い出を拾い集めている気分だ。
夏にはアイスコーヒーを、寒い日にはココアを。
何気ない日常の日々の中で嗜好品を味わせてくれた。
初夏なのに冷たくなった陶器は
まるで宿っていた命の終わりのような冷たさだ。
「...ありがとう。」
そう思ったから不意に言葉が零れた。
明日からのマグカップを買いに行かなきゃな...
語り部シルヴァ
『もしも君が』
ねえ、もしも君が今辛い思いをしているなら僕は
君の力になれるかな。
飛び降りたいなら一緒に飛ぶし泣きたいことがあるなら
一緒に泣きたいな。
ねえ、もしも君が今幸せなら僕は
君から素敵な話を聞けるかな。
君の笑顔が好きだから君の幸せな話なら
どんなことだって聞きたいな。
ねえ。もしも君が今生きていたら...
僕は今も悔やむことなく君の隣にいれたかな。
あの日喧嘩別れさえしなければ君と今も
放課後の帰り道に買い食いできたかな。
ねえ...もしも君がもう僕のことを許してくれているのなら
僕はこれから幸せに生きていいのかな。
でも絶対そんな日はやってこない。
これからも僕は君のことを忘れず、
償う日々を送っていくつもりだから。
そんなもしもを考えても君が隣に現れることは無いけどね。
君のお墓の前で静かに手を合わせる僕の頭の中は
ずっとうるさいままだ。
語り部シルヴァ