『まだ続く物語』
全ての試練を乗り越えて最後の関門を突破。
手に入れた世界一の称号に世界中が称える。
僕は世界を救った。世界を守った。
世界一の勇者になれた。
そんな優越感を宴の酒で祝い、次の朝を迎えた。
起きていつもの服に着替える途中で
世界を救ったことを思い出した。
これから何もしなくてもいい。
着替えをやめて寝具に寝そべる。
時間は止まったかのように進まず
じっとしているのも嫌になる。
起き上がって着替えて家を出た。
村人に何処へ行くのかと聞かれた。
また旅を始めようと思うと答えた。
俺は世界を救ったが知らないことだらけだ。
世界一の称号を貰ったからには
世界をできる限り知ろうと思う。
そこで得た知識でまた別のことが出来るかもしれない。
世界をもっと知って、俺自身の物語を濃く彩ろうじゃないか。
なんだか旅を始めた頃を思い出す。
俺の物語はまだまだ続きそうだ。
語り部シルヴァ
『渡り鳥』
「やぁやぁ」
休憩中にやってきたのはワタリドリと呼ばれるやつだ。
「もうそんな季節か」
「ここはもう暖かいねえ。ちょっとジメジメするけど」
思い切り羽を伸ばしてあくびをしながらワタリドリは語る。
「今年も色んなとこ回ったんだろ?どうだった?」
「あぁ。そりゃもう___」
ワタリドリは暖かいところが好きなやつで
ここら辺が寒くなると暖かい場所へと飛んで行く。
俺より世界を知っていて俺より生きるのが楽しそうなやつだ。
俺は遠くへ飛ぶ勇気も体力も無いから
こうして土産話を聞くのが楽しみだ。
一通り話し終えたワタリドリは一呼吸置く。
どうやら次で最後の土産話になりそうだと独り言を零す。
「なら次は俺が飛んで土産話を聞かせるよ。」
ワタリドリは甲高い声で笑う。
なら、羽を伸ばして待っていると言って
一人でまた甲高い声で笑った。
語り部シルヴァ
『さらさら』
上から下へと砂が流れていく。
キラキラと小さく光る砂が混じっていて
部屋の明かりが反射している。
紅茶を蒸す時、カップ麺を作る時、最近の楽しみ。
静かに時間が過ぎていくのが魅力的に感じるそれは
どこか可愛さも感じられるようになってきた。
上の砂がどんどん減っていって
下の砂の山がどんどん増えていく。
それを見つめていれば時間があっという間に過ぎて
紅茶やカップ麺がより美味しくなるような気がする。
たまに静かすぎて砂時計を見つめていると
そのまま寝てしまうのがたまにキズかもしれない。
そう思いながら伸びきったカップ麺を口に運ぶ。
...ベチャベチャな食感だ。
語り部シルヴァ
『これで最後』
「ごめんね...これで最後だから...」
スマホ越しに聞こえる相手の声はいつも鼻声で、
俺は"別にいいよ"と返すのが日常になってきた。
俺たちは2ヶ月ほど前に別れた。
理由はこれ以上付き合ってもお互いを
傷つけ合うだけだと思ったから。
それでお互い了承したわけだが...
それから相手の情緒がずっと不安で
電話をしないと落ち着けないらしい。
相手も申し訳なく思ってるようで常に
さっきの言葉を伝えてくる。
何度目のこれで最後だろう。
何度別にいいよを繰り返すのだろう。
ズルズルと引きずるこの関係に終わりは来るのだろうか...
いや、きっと終わることは無い。
これ以上お互いを傷つけないためにも...
語り部シルヴァ
『君の名前を呼んだ日』
昔、俺が小さい頃よく遊んでくれた人がいる。
確か引っ越した先の家が隣で近所同士親が仲良くしてたのも
あって遊ぶ頻度が多かった。
相手が女の子で俺は男ってこともあってか
相手の名前を呼ぶのが恥ずかしくて
「おい」とか「お前」ってしか呼べなかった。
次遊んだときには...なんてことを繰り返していくうちに
突然相手が引っ越すことになった。
結局勇気を出せず名前を呼べないまま
別れる形になってしまった。
高校生になった今じゃ相手の名前すら覚えてない。
また...次会えたらその時には
名前を聞いてちゃんと名前で呼びたい。
君の名前を呼んだ日には...
「おい」とか「お前」って呼んでいたことも謝らなくちゃ。
それから...また二人で遊べるかな。
語り部シルヴァ