語り部シルヴァ

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5/3/2025, 10:25:48 AM

『青い青い』

ここの教室からの景色を見ていると
色々と懐かしく思うことがある。
始業式の緊張感、教室での告白、文化祭...
数十年前の記憶なのにこうも鮮明に再生されるものなのか。
教員免許を取って、地元の高校の教師になった。
まさか担当のクラスが当時の自分が入ったクラスと
同じになるとは思わなかった。

壁の質感とか床の模様とか少し風化しているが
それも変わってない。
あの頃の自分はこうなるとは思ってなかっただろう。
なにせあの頃の自分は先生が嫌いだった。

綺麗事しか言わない、一人一人見ているようで
見ていなかったような先生しかいなかったからだ。
もっとこうして欲しい、あぁして欲しい。
そんな思いも内気な自分は言えなかった。

だから自分が先生になってやって欲しかったことを
やり遂げようと決めた。
少しでも生徒が青春を謳歌できるような先生に...

語り部シルヴァ

5/2/2025, 10:32:17 AM

『sweet memories』

これは初デートの時に初めて手を繋いだ写真。
これは文化祭の時に友達に茶化されながらも
撮ってもらった写真。
これは...

スライドすればするほど溢れかえるのはキミとの思い出。
喧嘩もしたけど、それ以上にキミと幸せな時間を過ごした。
抱きしめられた時のキミの温かさとか
デートの時の不器用ながらもエスコートしてくれる姿に
感じた愛らしさとか...

どれも素敵な思い出だ。
思い出を噛み締めるように一枚一枚タップして選択する。
写真を見る度にその時の思い出が脳裏に再生される。
あー...終わっちゃうなあ。
名残惜しいと感じてしまうが全部この場の感情だ。

全て消しますか?と携帯に問われ、
一瞬躊躇ったがはいを押す。
容量が軽くなったのかスラスラと動くスマホ。

さよなら。私の初恋。
甘いキラキラ日々は一瞬にして
真っ黒な苦い思い出に様変わりしてしまった。

語り部シルヴァ

5/1/2025, 10:38:20 AM

『風と』

下り坂で自転車のペダルから足を離す。
どんどん加速して受ける風は勢いを増す。
人や車が来るのが少ないここだからこそできること。

春の日差しで火照った体が風によってどんどんと冷えていく。
心地いい...鳥やバイカーはこんな気分なんだろうか。
この風を受けたい。もっともっと風を浴びたい。
風といっしょに春を走り抜けたい。

けれど坂道は緩やかになっていく。
速度がどんどん落ちていく。
そしてあっという間に自転車は
ピタリと止まってしまった。

自転車から降りると風は僕を置いて
どこかへと吹いていってしまった。

語り部シルヴァ

4/30/2025, 12:02:18 PM

『軌跡』

「ここも...」
獣道を進むと苔むした勇者の像をまた見つけた。
ただ手入れのされていない様を見る限りここら辺の人は
勇者のことをもうなんとも思っていないのだろう。

かつてこの世界を守った勇者。
勇者は自分の命が尽きるまでこの世界を旅して周り、
自分の像を作ることで平和の象徴にも
魔族の魔除けにもなると考えていた。

そんな昔話から数百年。
人々は勇者の有難みを忘れているように思えた。
勇者の像が手入れされていない。
つまり勇者が崇められていない...
なんて姑息な魔族が来てしまったら...?

もしものもしものために少し前から
勇者の像を手入れする旅を始めた。
そう、勇者の像を掃除しみんなを守るため。

...けど少しは勇者が辿った道のりを旅するワクワクも
ちょっとあるのは内緒だ。

語り部シルヴァ

4/29/2025, 10:15:30 AM

『好きになれない、嫌いになれない』

私はわがままだ。
どんなときも隣にいてくれる幼馴染がいる。
映画を一緒に行ったり、親が危篤状態だった時も
何も言わず私の手を握ってくれる。
かけがえのない存在だ。

クラスメイトによく「なんで付き合わないの?」なんて
茶化されるのも慣れてしまった。
付き合う...想像できないから。と答えは決まっている。

そもそも幼馴染のことは好きなのかわからない。
ずっと隣にいるから家族のような安心感はあるものの、
クラスメイトの惚気話に私たちを当てはめても想像できない。
一時突き放して嫌いになろうと思ったけど
それも一日で我慢できず謝って事が済んだ。

私は幼馴染を振り回すわがままな人だ。
それでも隣にいてくれる幼馴染の恋人に私は値しない。

好きとも嫌いともとれない二人の距離。
それが私たちだ。

語り部シルヴァ

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