『君を探して』
「そうですか...ありがとうございます。」
答えてくれた住民にお礼をしてその場を去る。
どうやらここにも君の情報は無さそうだ。
当たり前かもしれない。僕も初めて来た場所だ。
数年前、世界を崩壊に導いた大地震が起きた。
どこの国も壊滅寸前で、
ほぼ世紀末のような世界に様変わりした。
遠くに住んでいた君もあれから連絡が返ってこない。
移動手段を手に入れてから一目散に君のところへ向かった。
残念ながら君の目撃情報は見当たらなかった。
そこにあったのは...僕とお揃いのペアリングだけがあった。
元々1人を好む君だ。きっと1人でなんとか生きているはず...
そう信じて僕は国中を駆け回った。
そして今日。未開拓の最後の場所だった。
この国には君はいない。
...だから次は世界に行こう。
君が生きていることを信じて...
このペアリングを君に「忘れ物だよ」って言って渡すんだ。
語り部シルヴァ
『透明』
私の幼馴染は何を考えているかわからない。
急に私を連れ出して花火を見に行こうと言い出したり、
私からの誘いをどれだけ寝れるか挑戦したいと
言って断ったりする。
この前もお気に入りの野良猫を見つけたから一緒に
おやつあげよと言って私の返事を待たずして走っていった。
毎日振り回されてばかりだ。
本心でやっているのかそれとも
ただ何も考えずにやっているのか...掴みどころのない奴だ。
ただわかるのは悪気があってやってるわけじゃない。
現に私は嫌悪感を感じないしなんなら楽しさを感じる。
私の知らない世界に連れて行ってくれてることが
多いからだろう。
そう...例えるなら幼馴染は綺麗な水みたいだ。
濁りのない言動に掴めない本心。うん、納得だ。
なら、この水を私が土足に入って濁すわけにはいかない。
私と幼馴染。この距離感が今の心地良さを感じれるという
なら、本心かどうかなんて聞くのは野暮ってことだ。
「おーい。ちょっといい?」
ほら。またお呼びだ。
流れる水のままに任せよう。
語り部シルヴァ
『終わり、また初まる、』
風の匂いを感じた。
暖かくて優しい匂い。春が風に乗ってきた。
3月の中旬頃ということもあって、
そろそろ暖かくなってきたのだろう。
今朝は寒かったものの、お昼のこの時間帯は
暖房も上着も要らずで窓を開けても平気なくらいだ。
雪解けのようにゆっくりと
冬が終わっていくのを感じると共に、
今年度の初めましての春がやってきた。
ポカポカと陽気に当てられてまどろむ日々を思うと
早く来てくれと願う反面、
寒さがなんだか寂しくなっていく気がする。
まだ寒さが残っているからだろうか、
暖かい日差しを受けているのに体がゾワっとした。
語り部シルヴァ
『星』
まだ寒さが続く夜の下、手袋を忘れてしまい手をコートの
ポケットに突っ込み肩を震わせながらトボトボと歩く。
早く暖かくなって欲しい。服のかさ増しで肩こりが
酷くなったり朝の準備が多くなって嫌だ。
そのせいで少しでも早く
布団から出ないといけないのは朝から地獄だ。
ため息をつくとマスク越しにでも口から白い息が漏れた。
その白い息を消えるまで見送ると空は満点の星空だった。
「おぉ...綺麗。」
白い息があとも上を見ながら歩いていると
前方から強い衝撃を受けた。
「〜〜〜〜っ!!!」
咄嗟に頭を抱える。
寒さは吹き飛び自分の周りに星がキラキラと輝いている。
あぁもう散々だ。さっさと帰ってご飯を食べて寝よう。
ぶつけた部分を冷たい手で冷やしながら
チカチカした視界をフラフラしながら帰った。
語り部シルヴァ
『願いが一つ叶うならば』
家に帰った瞬間。ここが悲惨な現場に
なっているなんて誰が予想出来ただろうか。
休み明けの出勤日。
ゴミ出しも忘れず仕事もこなせて順調なスタートを切れた。
家に帰れば愛しのわんちゃんがお出迎えして
一緒にご飯を食べてのんびりするというのが理想だった。
なのに家に帰ってもわんちゃんは顔を出さない。
いつもと違う。そんな違和感を覚えて
恐る恐る廊下を歩いてわんちゃんを探す。
台所でわんちゃんの背中を見つけた時は安堵した。
そのまま歩いていくと、全てを理解した。
棚の鍵を閉め忘れていたようで、
中身をわんちゃんがぶちまけていた。
あぁ、神様。今願いをひとつ叶うなら...
朝の自分に戸締りをチェックするよう言ってください。
しょんぼりしているわんちゃんを怒るに怒れない私は
すぐさま片付けることにした。
語り部シルヴァ