語り部シルヴァ

Open App
1/11/2025, 10:37:07 AM

『あたたかいね』

バスが来るまでまだ時間がある...
くそ...席に座りたいからって早く来すぎた。
日が昇る中屋根の下は随分と冷える。
寒そうにしていると、同じクラスの友人に声をかけられた。

「お疲れ、随分と寒そうだね。」
「お疲れ。あーバス停の屋根のせいで寒くてね。」
そういうと友人はカバンからココアを取り出して渡してくる。

「ほい、これで少しは紛れそう?」
「え、嬉しいけど貰っていいのか...?」
「まーた買ってくるから大丈夫!
明日購買でなにか奢ってくれたらいいよ!」
「ありがとう。ってそれ購買目的だろ。」
バレた。と笑う友人。

こんなやり取りをしているだけでも温まるのだが...
話すと笑われそうだから言わないでおこう。
じゃーねーと友人は帰っていった。
ココアを開けて1口飲む。...思った以上にぬるいな。

ココアがぬるくても、友人の優しさが暖かいものだったから気にしないことにした。
明日好きなものを奢ろう。

語り部シルヴァ

1/10/2025, 1:02:40 PM

『未来への鍵』

また...またダメだった。
自分の夢を掴むためにアイドルになったのに、
テレビ番組として出演するとどうも上手く話せない。
正直もうダメかもしれない。

ここまで来たけど結局一般人より
少し顔が知れてる程度にしかなれなかった。
私の未来はここで閉じて残りの人生を
のんびり生きた方がいいのかもしれない...

みんなには申し訳ないけど...
そう考えアイドルグループのみんなに話した。
後輩が何か言いたげそうな顔をしているので聞いてみた。
すると後輩は涙を浮かべ

「私がここまでこれたのは皆さんや先輩のおかげです!
今度は私たちが先輩を支える番です!先輩の目指す未来のために私たちが力になります!」

可愛い後輩からの頼もしい言葉に私まで涙が流れる。
この子たちが私の未来への鍵...
この子達のためにも私がしっかりしないと...!
「ごめんなさい...私弱気になってた。私もっと頑張るね!」

私の夢はいつまにか私"たち"の夢へと変わっていた。
そう...みんなで未来を掴むんだ。

語り部シルヴァ

1/9/2025, 12:54:03 PM

『星のかけら』

満点の星空を見る度に昔を思い出す。
小さい頃の僕は結構な泣き虫だった。
泣いた理由はいっぱいあった。
学校で飼っていた金魚が死んだ、友達と喧嘩した、
テストで納得のいく点が取れなかった。
そんなことがある度1人部屋の隅っこで泣いていた。
親に心配かけないように1人息を殺して...

ある日の夜いつものように
泣いて窓越しに夜空を見ていると、おじいさんが空からやってきた。
「どうしたんだい。
なんだか悲しそうな顔をしているじゃないか。」
物腰柔らかそうに尋ねてくるおじいさんを不審者とは思えず
泣いていたこと、泣いた理由を伝えた。
するとおじいさんは優しく笑いながら
星空を摘むように指を動かす。
そのまま僕の前に持ってくると星空は小さな飴になった。

「ほら、星空からもらった飴だよ。
これで元気を出しなさい。」
言われるがままに飴を口に運ぶ。
甘いけどなんの味かわからない。
それでも今まで食べた飴のどれよりも美味しかった。

「それじゃあね。可愛い泣き虫さん。」
おじいさんはそう言って僕の頭を撫でると
すうっと消えていった。

今思えば夢かもしれない。
それでもあの星空の飴のことは忘れられないし、
今でも寂しい夜に元気をくれる魔法になった。

お礼を言いそびれたからまた会えたらな...
少しセンチメンタルになった心に冷えた風が視界を滲ませる。

「おやおや、泣き虫さん。どうしたんだい?」
聞き覚えのある優しい声が夜空から聞こえた。

語り部シルヴァ

1/8/2025, 11:01:06 AM

『Ring Ring...』

携帯をちらっと見る。
残念ながら携帯は微動だにしない。
いや、今日も来ないのかもしれない。

最近彼女から一向に連絡が来ない。
元々嵐のような人だがその嵐がずっと静まりかえっている。
普段は飽きない日々だなと思う反面、
いざ来ないと寂しく感じる。

おかげで勉強も進まない。
でもこっちから連絡するにせよ話題も無い...

勉強も手付かず、悩んでいるとついに携帯が
バイブレーションで揺れながら携帯が鳴る。
呼出音の一回目が終わる前に出る。

「も、もしもし...?」
携帯から聞こえる声はクスクスと笑いながら...

「やっほー。ずっと待ってたでしょ?」
どうやら彼女は僕のことについてはなんでも
おみとおしのようだ。

語り部シルヴァ

1/7/2025, 10:32:09 AM

『追い風』

汗の匂い、冷たい風。
背景から聞こえる声援。
試合終了まで残りあとわずか、
このままだとこっちが負ける。
空気が完全に押されている。

まずい...

体もそろそろガタが来ている。
それでもまだ持ってくれ...

汗は冷や汗に変わっていく気がした。
もし負けたら...なんて先に1人反省会を開きそうになる。
でもそんなことしている場合じゃない。

すると後ろからキャプテンの声が聞こえる。
「お前らー!まだまだこっからだぞー!」

怒った様子じゃなくとても楽しそうな声。
そうだ。そうじゃないか。まだまだ楽しめるじゃないか。
強ばっていた口元が緩くなって笑顔になった気がする。

こんな状況だからこそ楽しくぶつかり合わないと。
俺と同じ気持ちなのか仲間全員前へと走り出した。

残り2分。追い風に乗る勢いで審判のホイッスルが鳴り、
ボールを託された俺はゴール目掛けて走り出した。

語り部シルヴァ

Next