『はなればなれ』
秀でたものは摘み取られる。
なんて言葉を風の噂で聞いたことがある。
才能あるものは権力を持つものに選ばれるというものだ。
まあ、それが必ずしも良い方向へ行くとは限らないのだが...
物心ついた時にはそいつは葉が4枚ついていた。
俺含め周りのやつらは3枚なのにだ。
なぜ1枚多いか聞いても本人もわかってないらしく。
生まれつきの幸せ者ということだ。
最初は羨ましかったが、3枚のやつらに
妬み羨ましがられている姿を見て3枚でも良かったと安心した。
姿が少し違うだけで扱いが違うんだ。
それなら周りと同じ方が俺はいい。
なんて思っていると大地が揺れ空が陰り、
4枚葉の叫び声が聞こえたと思ったら大地がまた揺れる。
当たりが静まり空が晴れるとそいつはいなくなってしまった。
秀でたものは摘み取られる。
そんな言葉を思い出しながら
離れてしまった4枚葉のことを寂しく思った。
語り部シルヴァ
『子猫』
グラスを拭きながら時計を見る。
もうすぐやってくるわね。
そう思いながらいつものを準備する。
少し温めたミルクに今日の試作品。
喜んでくれると嬉しいんだけど...
そう思いながら準備を済ませベル付きのドアを見つめる。
少し待つとドアのベルが...
鳴らず下の方でトントンとドアを優しく叩く音が聞こえる。
カウンターを出てドアを開ける。
「いらっしゃい子猫ちゃん。今日も来てくれて嬉しいわぁ。」
ぶかぶかなパーカーを着て鼻を赤くした常連さんはいつもの席につく。
「はい温かいミルクと今日の試作品お口に合うかしら...?」
そう言いながら料理を差し出すとミルクを1口。
ほぅとミルクを飲み目がとろんとしている。
試作品のミニオムライスを1口食べると目をキラキラと輝かせて1口、また1口と頬張る。
この子猫ちゃんはどういう家庭事情かは知らない。
けれどこんな子を見過ごせるほど私は冷たい人じゃない。
それに...子猫ちゃんがお腹いっぱいになって幸せそうな顔を見てしまったからにはその顔を見たくなっちゃうからね。
満足した子猫ちゃんは私に手を振って帰って行った。
また明日も待ってるわ。
そう言いながら手を振り返した。
語り部シルヴァ
『秋風』
目を覚まし飛び跳ねるように起きる。
布団はベッドからずり落ち急いで携帯の時間を確認する。
...遅刻だ。
慌てて準備しようとしたが
一旦落ちついて携帯の画面を確認する。
今日は休みの日だ。
安堵し布団をベッドに戻す。
ご飯の作り置きも掃除も今日はナシでいこう。
寝巻きのままコーヒーでも飲もう。
朝の日差しを浴びてゴロゴロしよう。
まずはコーヒー。
ちょっと余裕ある人のように窓を開けて日差しと風を浴びる。
少し暖かい空に全身を冷たく撫でる風が心地よい。
コーヒーの苦味がぼーっとしていた頭を覚ましてくれる。
カップを置いて思い切り伸びをする。
さあ、今日はいい日になりそうだ
語り部シルヴァ
『また会いましょう』
ポストを除くと見慣れた封筒が1枚。
すぐさま回収して家に入る。
手洗いうがいを済ませ自分の部屋に入りカバンを投げて
封筒を優しく開けて手紙を読む。
寒くなってきたこと。
けれど朝の散歩で日の出が見れるようになったこと。
風邪をひかないように。
優しい字で書かれた手紙は
心配してくれる気持ちが伝わってくる。
日常的な内容が多めで相手がどんな生活を
送っているのかが想像できるくらいだ。
そして最後に...
"また会いましょう。"
と書かれている。
早速引き出しから紙とペンを取り出し
内容を考えつつペンを進める。
早起きできるのは羨ましい。
こちらは最近雨が続いているので雨音を楽しんでいる。
そっちこそ風邪をひかないようしっかりと寝てくださいね。
... "また会いましょう。"
実際に会ってはいないけど、私たちの挨拶のようなもの。
相手より字は汚いけど、気持ちが伝わっているといいな...
手紙を封筒に入れて...住所を書いて完成。
明日出しに行こう。さて、次はどんな返事が返ってくるかな。
「また会いましょう...」
ボソッと呟いた自分の言葉に思わず笑みが零れた。
語り部シルヴァ
『スリル』
沈黙の空間が続く...
一手間違えれば全てが終わる。
緊張して手が震える。
冷静に...冷静に...そんな思いをおしのけ
心臓は高鳴る。
こんな状況を楽しめるやつの気がしれない...
でも...カードは揃った...
ここで出るか...それとも...
いや、出る!
震える手でカードを出す。
「フルハウス!」
友人たちは...出せるカードは無さそうだ。
「お前の一人勝ちかよ!」「ずりー!」
「はいはい。約束でしょ?こいつらは貰うからね。」
深夜テンションで始まったポーカーがすごく楽しい。
ただ...年に1回ぐらいにしとかないとね。
どハマりしそうなスリルの味を
知っちゃったからには気をつけないとだから...
語り部シルヴァ