『鏡の中の自分』
夜中にふと目が覚めた。
トイレに行ったあとに洗面台で手を洗う。
ふと気になって鏡をじーっと見つめる。
寝ぼけただらしない顔。
明日も学校と考えるとだるい。
余計に脱力してだらしない顔に...
鏡の自分もだらしない顔に。
鏡の中の自分が羨ましい。
そう思いながらベッドに戻ろうと鏡に背を向けると、
コンコン。と固いものをノックする音が聞こえた。
振り返ると鏡から手が伸びてて、寝巻きの胸ぐらを掴まれた。
「なら、入れ替わってやるよ。
俺が鏡の前に来ない限りお前は存在しなくなるけどな。」
不気味な声で喋りながら僕は
ゆっくり鏡の中に引きずり込まれた。
それと同時に僕そっくりの何かが
鏡の外へ出て言ったような気がした。
鏡の中に完全に入った瞬間、意識がプツンと切れた。
語り部シルヴァ
『眠りにつく前に』
日記も書いた。
明日の準備も終わらせた。
今日やることは全部済ませた。
あとは...
窓を開けて外の夜風を浴びる。
ひんやり冷たく、どこからか金木犀の匂いがする。
この時期の夜風はいわゆる期間限定だ。
ちょっと寒いけど、気がつけば終わってしまうから
1日たりとも欠かさず浴びる。
それに布団が暖かく感じて眠りにつきやすい...
ずっと吹いていて欲しいが、
金木犀の咲いてる期間はとてつもなく短い。
あの匂いが無くなった日の夜風はとても寂しく感じるだろう。
そんな寂しさが増すように
今日も金木犀を纏った夜風を浴びる。
体が芯まで冷えていく。
よし、そろそろ寝ようかな。
寝間着が凍るような冷たさと金木犀の香りを
夜風からおすそ分けしてもらった。
今日もよく眠れそうだ。
語り部シルヴァ
『永遠に』
今日はなんて日なんだろうか。
朝早くから彼女にプレゼントを貰って日中は
授業も無く彼女の家で夜までのんびり。
夜に贅沢にピザを出前で頼んでパーティ。
お風呂に入って2人でベッドを温める...
自分がただ生まれただけなのに
これほど幸せなことがあっていいんだろうか。
天井を不安そうに眺めているのを勘づかれたか、
彼女は眠たそうな声で「幸せになっていいんだよ。」
と囁いた。
お礼に頭を撫でると彼女は直に寝息をついた。
すぅすぅと可愛い寝息。
愛らしいその顔を見ていると不安も晴れていく。
きっと誕生日じゃなくても彼女は
こう答えてくれていただろう。
もう主人公の時間は終わる。
残りは彼女の温もりを感じながら過ごすことにした。
永遠に...こんな幸せがずっと続くことを願って...
語り部シルヴァ
『理想郷』
世界が一から生まれ治ればよりよい世界になるだろうか。
瓦礫の山をよじ登り閑散とした荒地は人の気配すらない。
巻き上げる砂埃。
寒くなってきた風に砂粒が肌に刺さる。
目に入れば痛いで済むだろうか...
遠くの方で爆弾が爆発した音が聞こえる。
その後に吹く風は爆風だろう...
少し歩けば銃撃と悲鳴。もう少し歩けば怒号と鳴き声。
俺にもっと力があれば、瓦礫の山は富の山へと変えれたのだろうか。銃撃と悲鳴はパーティクラッカーと笑い声に...
俺がもっと力を持っていれば...世界を一からやり直せれる力があれば...
こんなゴミだめの世界を一掃して一から平和な世界を作れたのだろうか。
体力の限界で瓦礫の山のてっぺんで俺は意識を失った。
語り部シルヴァ
『懐かしく思うこと』
20241031
いつもの帰り道...のはずが、どうも賑やかだ。
仮装をしてはしゃぐ子供が多い。
...あぁそうか。今日はハロウィンか。
社会人にもなると時間感覚もイベント事も
関わりも興味も薄れてしまった。
最後にハロウィンを楽しんだのはいつだったかな...
数年前の記憶てあんまり覚えてないもんだ。
年甲斐もなく季節のイベント事を楽しめるような仲がいれば
変わったかもしれない...
が、あいにくぼっちな自分には縁のなかった話だ。
昔の思い出に老けているとスーツを引っ張られる感覚がした。
振り向くと仮装した子供が元気よくトリックオアトリート!
と叫ぶ。
「ごめんね。お菓子持ってないんだ...」
優しく微笑みかけたが現実は非情だ。
家に帰るまで永遠とひざかっくんをされた。
語り部シルヴァ