語り部シルヴァ

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10/2/2024, 11:24:13 AM

奇跡をもう一度

手術は無事成功した。
ベッドで眠る息子を見つめながらうるさい心臓を
なだめるように手に当てる。

重い病気を患った息子の命は長くは持たないと
先生に言われた時は目の前が真っ暗になるほど絶望した。
けれど、時間と息子が諦めない気持ちを教えてくれた。

どうにかできないものか、私はあらゆる手を尽くして
息子の命が助かる方法を模索した。
優秀な医者への手紙、動画サイト、SNS...
自分で出来ることはとにかくした。

そしてついに、息子の病気を治せる医者が
名乗りあげてくれて、診断後すぐに手術へと移行してくれた。

手術ができる医者と出会えたのは奇跡だ。
手術が成功したのも奇跡だ。
あとは...息子が目を覚ましてくれれば
どれだけ喜ばしいことか。

ここまでもわがままなのは充分わかっている。
でももう一度...奇跡をもう一度だけください。

うるさい心臓の鼓動と心電図の音だけが病室に響き渡る...

語り部シルヴァ

10/1/2024, 1:06:13 PM

たそがれ

今日最後のチャイムが鳴り響く。
図書室は静かで、チャイムの余韻がずっと残る。
ここの学校は夕方にチャイムが鳴る。
春は18時、秋は17時を最後にチャイムが鳴り、
チャイムが鳴った後で校内を歩いていると、
基本的には先生に帰らされる。

それまで僕は図書室でのんびり本を読む。
どーせ先生が迎えに来るならそれまでの時間を
有意義に使わせてもらおう。

窓の外からは沢山の男女がきゃいきゃいとはしゃぎながら
校門へと歩いていく姿が目に入る。
みんななんでそうはしゃげるんだろうか。
ずっと本を読んでいた方が有意義だろう。

いつの間にか本を読むのをやめて頬杖をつきながら眺めていた。輝く夕焼け空が彼らを照らしていたのと、
この感情に気付いて深いため息が零れた。

語り部シルヴァ

9/30/2024, 2:44:44 PM

きっと明日も

少し早くなった夕暮れは帰る時に
素敵な夕焼け空を見せてくれる。
部活も試合を終えて卒業の形で退部。
おかげで学校が終わり次第彼女と帰る時間が
毎日できるようになった。
今までは部活があったから一緒に帰れるなんて
夢にも思ってなかった。

ただ僕は電車通学。
だから彼女を家に送ってそこから帰る。
彼女の日常の景色に僕がいるのはなんだか嬉しい。
彼女が普段から見る景色、踏みしめてきた道。
帰り道を理解する度に彼女をまたひとつ理解した気分になる。

そんなことを思いながら彼女と話をしていると
あっという間に着いてしまった。
寂しいが...また明日だ。

「今日もありがとう。また明日だね。」
「だね。また明日。」

彼女が家に入るのを確認して帰路を目指す。
さっきまで歩いた道を引き返すこの寂しさは秋のせい。

きっと明日も、君のおかげで素敵な1日になるよね。
そう考えると帰り道が少し明るくなった気がした。

語り部シルヴァ

9/29/2024, 11:15:46 AM

静寂に包まれた部屋

「これで全部です。ではお願いします。」
頭を下げながら挨拶をする。
「かしこまりました!では現地で!」
力強い元気な声は大きいトラックに乗って走り出した。

さて...と部屋を振り返る。
ベッドや冷蔵庫、テレビ...自分の持ち物が
全て無くなったこの部屋はこんなにも広かったものか...

ここに来た時は広く自分好みの部屋に変えようと
意気込んでいた事を思い出した。
結局掃除が面倒で模様替えをする体力が無く
あんまり出来なかった。
次の部屋では...と思ったが
また同じことになってしまいそうだ。

ここで数年間過ごした思い出を思い出しながら
部屋の中をゆっくりと歩き、眺める。
思い出の中は賑やかだが、何も無い今はすごく静かだ。
...全部...思い出になってしまったなあ...。

少しセンチメンタルに浸りたいところだが、
そろそろ出発しないと荷物を待たせることになってしまう。

寂しいが...さようならだ。玄関でもう一度部屋の方を向き、
「ありがとうございました。」と
深く一礼しながら部屋に伝える。

お世話になりました。
それじゃあ、行ってきます。

語り部シルヴァ

9/28/2024, 12:07:03 PM

別れ際に

「これでボクたちは恋人でも友達でもない、赤の他人だ。」
夕焼け空も暗くなり始めた空のように
君の顔に影ができ始める。
俺たちは別れを切り出すことになった。
高校の頃から付き合い始めたが、大学生になり
お互い大人になるにつれて価値観や考え方がズレてきた。

俺たちが未熟だったのもあるが、大人に近づくたび
お互いの距離が離れるなんて思わなかった。
すぐに諦めた訳じゃない。
あーだこーだと試行錯誤した結果今に至る。

色々と頑張ったのに大切な人を幸せにできなかった。
それがお互いにとても悔しかった。
ふたりが別れを選択した時なんて目が腫れるほど泣いた。

もう完全に夜が来る。
ここに来るのも今日で最後だ。

最後のサヨナラを伝えるために帰る前に振り返る。
笑顔の君の腫れた目と流れる涙は逢魔が時の世界じゃ
隠しきれていなかった。

「じゃあね。今までありがとう!」
それでもいつもの口調の君を見て伝えるはずのサヨナラは
震え声になってしまった。

最後の最後の別れ際に、俺は呪いを受けることになった。
これから...一生忘れることのない呪いだ。

語り部シルヴァ

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