言葉はいらない、ただ...
些細な喧嘩を友とした。
話し合いで終わるはずだった。
少し高めの土産を持って話し合ってあの時は
悪かったと言うつもりだった。
ところがそうもいかなかった。
茶室へ案内されると思ったが、庭の真ん中に呼び出された。
土産は持っていかれた。
キョロキョロと見渡していると、友がやってきた。
「や、やぁ。」
挨拶をしようとすると友はこちらに真剣を放り投げて来た。
受け止めるやいなや友は真剣で斬りかかってきた。
咄嗟に鞘で受け止め剣を抜き斬りかかる。
「おい!急になんだ!」
問い詰めようと思うが友の構えは緩みもしなかった。
ただ、鞘で刀を受け止めた時に違和感があった。
力が思ったより入ってなかった気がする。
これは真剣による喧嘩...そう受けとっていいのだろうか。
片手に持っていた鞘を放り投げ構える。
友はニヤついて刀を握り直す。
言葉はいらない...ただ...喧嘩するのみだ。
そう言いたそうな友の笑みを見て釣られて笑う。
語り部シルヴァ
突然の君の訪問。
インターホンが鳴る。
ネットでの注文はしてないはずだ。
めんどくさいのも嫌だから居留守でも決めよう。
そう思って無視していると
何度も何度もインターホンを鳴らす。
ここまで来ると誰がやっているかはわかる。
「...インターホンはおもちゃじゃないんだぞ...?」
「はいっ!先輩を呼び出すためのものです!」
自信満々な回答はやや斜め上の答えが返ってきた。
この後輩は今年の春に1人で校内を迷っていたところ、
助けたら懐いてきた。
ゲームや映画の趣味が同じでよく夜に電話しながら
遊んだりする仲になったが、最近容赦なくこっちの部屋に
上がりこんでくるようになった。
嫌じゃないが...もっとこう...危機感を感じて欲しい。
そう思いながらも後輩用に準備していた
お菓子とジュースを用意する。
「ほら、今日のお菓子だ。ジュースもあるからな。」
「先輩...用意周到ですね。餌付けで私を飼おうとしてます?」
お前のためだ。と心の中でイラッとするも
すぐにそれは世話焼きだと感じた。
突然来るお前のために用意してやっていると言うと
後輩は何を思うか。
想像すると少し面白くなった。
「先輩。1人でにやけながら笑うのはちょっと...」
語り部シルヴァ
雨に佇む
今日は花火大会だったはずだ。
花火の空撃ちも鳴っていた。
自分の心臓と同じくらいに肌に響いていたのも覚えている。
それなのにどうだろうか。
一緒に行く相手も花火の予定もなくなってしまった。
お誘いにOKをもらったはずだけど...
直前になってキャンセル。
仕方なく1人で現地に着くと予報ハズレの雨。
もちろん花火大会は中止。
僕が何をしたんだろうか。
いつもより少し調子に乗っただけじゃんか。
あー...カステラも食べたかった。
2人で綺麗だねって言いながら花火を見たかった。
雨の中佇む僕の姿は見てもいられないほど
哀愁漂っているだろうか。
...雨で見えなくなってるといいな。
語り部シルヴァ
私の日記帳
私は日記を書いている。
ただの日記じゃない。
なんと4冊も書いているのだ。
総称を喜怒哀楽日記と呼んでいる。
名前の通りで嬉しいことがあったら喜の日記、
悲しいことがあった時は哀の日記とその時によって
書く場所を変えている。
めんどくさいこともあったけど、
日記の書き方はこれが一番落ち着く気がする。
次に見返した時にひとつの感情でもこんなに違うんだって
知れるのがなんだか面白くてクセになる。
ちなみに今月は哀の日記が1番多く書いたようだ。
夏は嫌いだからね。
語り部シルヴァ
向かい合わせ
彼女はいつも向かい合わせに座っている。
なんでも隣は恥ずかしいそうだ。
勉強する時も、カフェでおしゃべりするときも、いつも向かい合わせに座る。
2年ほど付き合った今、そろそろ隣でも大丈夫だろ?と聞いてみた。
彼女は「君の顔が自然と見れるからいいの。」と変わらず恥ずかしそうに答える。
そんな君の笑顔がどうしようもないほど好きだった。
僕も、向かい合わせが好きになった。
幸せの絶頂とも言えた頃、些細な喧嘩をした。
普段喧嘩をしないもんだからお互いのヒビの修復は困難を極めた。
ある日、彼女がついに答えを出す。
「ねえ、別れよう。」
向かい合わせに座る彼女は今までで1番真剣な顔だった。
語り部シルヴァ