鳥のように
鳥のように飛べたらどれだけ素敵だろうか。
誰しもが1度思うことだろう。
鳥のように空を飛んであの大空を自由に泳ぎたい。
誰もいない世界で1人自由になりたい。
僕も小さい頃は夢を見た。
鳥のように飛んで、いっぱい空を泳ぎたい。
でも現実は残酷だった。
小鳥のような僕は空の飛び方より
地面の舐め方を教え込まれた。
上司からの叱責、成績の良い同僚からの蔑み。
僕はまだ一度も空を飛んだことは無い。
でも、1度だけでもいい。夢を叶えたい。
助走をつけて屋上のフェンス目掛けて、
僕は夢に向かって走り出した!
語り部シルヴァ
さよならを言う前に
人を助けたいと思ったその時に体が動くなんて嘘だと思っていた。
気がついたら僕は車とぶつかって吹き飛ばされていた。
周囲がザワつく音と僕の名前を呼ぶ声が聞こえる。
君は無事そうだ。よかった。
悲しそうな顔をしないでくれ。これが本望だ。
自分の命に変えても君を助けたい。
本能的に動けて良かった...
でもこれはちょっとまずいかも...
意識が薄れてきた。
瞼が重くなってくる。寝たくないなあ。
痛みを感じていたはずの体が痛くなくなってくる。
あー...最後に伝えなきゃ...
「し...あわ...せ...に......」
格好つけて言いたかったセリフ。
恥ずかしくてずっと伝えきれずにいたセリフ。
ごめんね。さよなら。
抗っていた瞼の重みに流され目を閉じた。
語り部シルヴァ
空模様
ごめんなさい。
曇天の空の下、僕の告白は見事玉砕した。
なんで上手くいくと思ったのか小一時間自分を問い詰めたい。
そう思いながら校庭裏で1人ぽつんと佇む。
これから目が合う度気まずくなるんだろうか。
話しかけても無視されてしまうんだろうか。
友達でいて欲しいって言われたけどどうせ友達以下の存在になってしまう。
あー...これなら告白しない方が良かった。
もう泣きたい気分だ。
高校生にもなって泣く訳にもいかないから
上を見上げてぐっとこらえる。
...雨が降り始めた。
よかった。これなら涙を流してもバレないか。
語り部シルヴァ
鏡
僕はしてもらったことを返す。
助けてもらったなら力になるし
優しくしてくれたら優しくする。
他人は鏡だ。
だから僕が鏡になってみんながどれほど
素晴らしいことをしてくれてるかを教えている。
今日も助けてくれたから力になった。
良いことをすると気分がいい。
なのにこの曇った気持ちはなんだろう...
そう思いながら帰っていると、
怪しげな占い師に呼び止められた。
「お前さんは鏡か...面白い。
じゃあお前さん自身は何者なんだ?」
僕は鏡だ。
...自分で答えて違和感を覚えた。
僕を鏡に映すと何が見える?
僕はどういう存在?優しいのか悪い性格なのか...?
反射しても何も映らない。
顔面に鏡が貼り付いているようだ。
「わからんか...なら助けてやろう。」
そう言って占い師は僕の顔目掛けて木槌で僕の顔面を殴った。
パリンと綺麗な音が割れて鏡は鱗のように落ちた。
それからは自分のしたいように動いた。
助けを求めている人を助け、悩んでいる人に寄り添った。
前とやっていることは変わらないと思うけど、
前の曇った心はスッキリしていた。
「他人は鏡じゃ。だがそれはあくまでも例えの話。
受けたから返すはただの人形じゃよ。
自分から行動し、他人に評価を受けて初めて
"人は鏡"という言葉が成立するのじゃよ。」
語り部シルヴァ
いつまでも捨てられないもの
君からもらった懐中時計は随分と古びた。
メッキがはげ、緩くなった蓋、巻けなくなったネジ。
懐中時計としての役割はとうのとうに果たせなくなった。
ネジが巻けなくなったのは3年前。
それでも、君から貰ったというだけで
この時計はお守りにもなる。
隣に君がいなくとも、君が僕にくれたという事実を
この時計は教えてくれる。
未練がましい奴だ。
いつまでも引きずってる奴だと思われても構わない。
優しく懐中時計を胸に抱きしめる。
鼓動も伝わらないひんやりとした感覚は
冷たい現実を突きつけるかのようだった。
語り部シルヴァ