いつまでも捨てられないもの
君からもらった懐中時計は随分と古びた。
メッキがはげ、緩くなった蓋、巻けなくなったネジ。
懐中時計としての役割はとうのとうに果たせなくなった。
ネジが巻けなくなったのは3年前。
それでも、君から貰ったというだけで
この時計はお守りにもなる。
隣に君がいなくとも、君が僕にくれたという事実を
この時計は教えてくれる。
未練がましい奴だ。
いつまでも引きずってる奴だと思われても構わない。
優しく懐中時計を胸に抱きしめる。
鼓動も伝わらないひんやりとした感覚は
冷たい現実を突きつけるかのようだった。
語り部シルヴァ
誇らしさ
おとうさんはいつもけいたいに向かってあたまを下げている。
ごはんを食べてるときも休みの日も...
そうやってでんわを切ったあと決まって
「ごめんなあ」と頭をなでてくる。
ぼくはそれがお仕事だと思ってる。
むずかしいことはよくわからないけど、お母さんが
「あれもお仕事だから、
ママたちでお父さんを応援しようね。」と言ってた。
だからぼくはお父さんのことを
かっこわるいと思ったことは1回もない。
休みの日にその大きな背中におぶってもらえるのが
たのしみだな。
今日もかえってきたらいっしょにごはんたべようね。
語り部シルヴァ
夜の海
波が行ったり来たりしている。
波の端でザブン、ザバァと音を立てる。
海面付近の砂はしっとりと湿っていて歩く度に
ジャグジャグと音がする。
静かな夜に音はこれだけ。
こんなド田舎な場所ではいつもの事だ。
実家に帰省したら楽しみはこれくらいだ。
静かな夜に海の音を聴く。
大学生なって都会で一人暮らしを始めたが、
18年もの間よくこんな何も無い場所で生きてきたものだ。
おかげで都会じゃ当たり前なことを学ぶのに
とても時間を食った。
満開の星空に漣の音だけが響く。
朝とは違う顔を見せる夜の海は私のお気に入り。
暗くて少し不気味だけど、
辛いこととかなんでも静かに飲みこんでくれそうだから。
語り部シルヴァ
自転車に乗って。
電動自転車よりも普通のママチャリの方が好きだ。
自分の足で漕いだ分進んでくれるのがなんかいい。
もちろん足が疲れるけど、
その疲れがちゃんと漕いでいるんだと感じさせる。
遠くに行けば行くほど疲れは出る。
でも普段バイクを乗ってる自分からすると
普段行かない場所を自転車で行くのは小さな冒険のようだ。
徒歩でもバイクでも得られない何かが自転車にはある。
夏はさすがに暑すぎて自転車を使うと体力が
すぐに無くなってしまうからもう少し
気温が落ち着いてからにしよう。
秋はスポーツの秋なんて言うのだから
自転車に乗るにはうってつけだろう。
さあ、秋になる前に自転車に乗ってどこに行こうか
決めておこうか。
語り部シルヴァ
心の健康
心ってのは1番ケアが大変だと思う。
頭が痛いなら頭痛薬、風邪を引いたなら風邪薬、
胃が痛むなら胃薬...
なら心が痛い時は?
心が痛いのは心臓?それとも肺?
そんな現実的なものじゃない。
好きな人に振られ、愛するペットとの別れ、上司に叱責され...
心の痛みっていうのはあるはずのない心って場所が色んな原因で苦しいことなんだ。
そしてそれを解明して、心を支えていくっていうのがカウンセラーのお仕事。
さっき言った質問の答えがこれさ。
心が痛いときは、僕たちが君の心の薬になる。
もちろん君はこういう場所が初めてで、他人に話すことは抵抗あるかもしれない。
それでも君が自分の意思でここに来れたのなら、ダメ元で話してみてもいいんじゃないかな?
そう言われて少し考えた。
すると僕の口は自然と開き、あるがままを話し始めた。
話を進めると、涙が出てきた。
先生に言われて気づいたんだ。
僕は誰かに助けて欲しかったんだ。
語り部シルヴァ