一尾(いっぽ)in 仮住まい

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6/19/2025, 3:37:28 PM

→短編・雨と洗濯物

 マンションの高層階に住んでいると、雨音で雨に気がつくことが少なくなる。雨音は地面に打って鳴るものなのだ、と知りました。
 じゃあ、どうやって雨を知るかというと、「匂い」や「湿度」に頼ります。湿度を含んだホコリが鼻に詰まるような匂い。あの香りが周辺に立ち込めるや否や、私は洗濯物を取り入れます。洗濯物の二度洗いはゴメンですから。不経済だし、なんせ面倒くさい。私はこの世でメンドクサイことが何よりも嫌いなのです。
 だから、たとえあなたと喧嘩してようが、あの香りを鼻で感じたら、さっきまで泣いていた顔に涙の跡を貼り付けながらも、私は洗濯物に猛ダッシュするのです。
 あなたは「よく雨に気がついたね」と馬鹿にしたように笑います。
「あなただってメンドクサイ仕事の対処法は持ってるでしょう?」
 私は取り込んだ洗濯物をソファーにかけました。部屋中にお日様と洗濯洗剤の香り。外では雨が降り出しました。雨の香りは最初だけ、後はもう湿度がすべてを流してゆく。
「そうだね」
 しおらしくあなたが洗濯物を畳み始めたので、私はキッチンでコーヒーを淹れる準備をすることにしました。
 喧嘩はもう終わりです。

テーマ; 雨の香り、涙の跡

6/18/2025, 3:44:44 PM

→さぁさぁどうぞ、
  すべては貴方次第でございます。
 但し、よぉくお考えなってくださいましね。

これは貴方の糸ですので、
    断ち切るなり、
   ゴミくず入れに捨てるなり、
 後生大事に袂に仕舞い込むなり、
     縫い糸にするなり、
   使い方は貴方のご自由に。

まぁ! 貴方!
   なぜ糸を斯様に強くお引きになるのです?
糸を辿った先のことなど、
   お考えにならないで。

来年の事を言えば鬼が笑う、
  そんな諺を
  貴方もご存知でらっしゃるでしょう?
  
テーマ; 糸

6/17/2025, 4:02:24 PM

→無風、居心地が悪い。

唐突に、風が凪いだ。
まるで扇風機のスイッチが切れたように。

それまで寒いくらいに吹いていて、
不愉快さまで感じていたのに、
いざその風が止んでしまうと、
どうしようもなく不安になった。

空に手を伸ばす。
一か八か、
扇風機の電源ボタンを探す。
しかし、
人間の手の届く場所にあるだろうか?
ないだろうな。

無風、
居心地が悪い。

テーマ; 届かないのに

6/16/2025, 12:49:38 PM

→メーデー

船舶『私』号は、発熱で操作不能!
メーデー! メーデー!
本船は、只今パンドラ海域に迷い込んだ模様!
嗚呼! 
幽霊船『黒歴史』号が!!!
メーデー! メーデー! メ………――
 

テーマ; 記憶の地図

 あきませんわ、
  熱がマジで上がってきよった。

6/15/2025, 3:25:12 PM

→混沌に昏倒する。

 風邪を引いた。今時分の風邪は何とやら云うけれど、まだ梅雨だもんとグズる、そんな夏風邪。
 冬場よりも高い気温のため、熱に浮かされると途端に汗だくになるので、寝不足が続いている。
 さぁ、この混沌をどのようにやり過ごそうか。
 マグカップにハチミツ(輸入食材店の安いヤツ)少々、レモン汁(キャロットケーキのフロスティングの残り)を1センチくらい、シナモン(これもキャロットケーキの残り)おろし生姜(すりおろして冷凍しといた)ちょびっと、そこにお湯。ホットレモネードの出来上がり。
 積読を漁る。取り出したるは、中江兆民著『三酔人経綸問答』。発熱状態は、酔っぱらいの政治談義を読むに、ほど良い臨場感が味わえる、はず。よしよし、思った通りだ。ふわふわと、人様の政治哲学に触れる。良い気分だ。次に選んだ本は、ベンジャミン・クリッツァ―『モヤモヤする正義』だ。今の私は正義云々よりも鼻がモヤモヤしてるけど。
 あ~、鼻セレブ、ほしい。アカン、ボーっとしてきた。レモネードも飲み干したし、寝るわ。
 
テーマ; マグカップ

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