→心の襞に幾つある?
強い想いの丈、黒く染まった憤怒、ちょっとした優越感、その対極の劣等感など……、それらは口にはしない感情を私たちは持っている。自分だけの秘密だ。
言語コミュニケーションの複雑さが、このような秘密を人間に抱かせるのだとすると、人類以外はそのような心の秘密を持たないのだろうか? (あぁ、お願いです。今は、イルカや象、猿人類には言及しないでほしい!)
数年前、菌類であるキノコの電気信号が言語的特性論を持っているとの研究結果が発表された。
そこから想像を働かせるとすると、キノコたちは共通の単語のもと、キノコ語を操っているかもしれないのだ。
では、彼らも感情を有しているのだろうか?
彼らの傘の中には、どのような秘密が潜んでいるのだろうか?
テーマ; 傘の中の秘密
参考文献: Andrew Adamatzky『Language of fungi derived from their electrical spiking activity』(『Royal Society Open Science』)
→雨上がり、逆上がり
鉄棒下の水たまりを
ものともせずに逆上がり
天から落ちた雨粒を
天に向かって跳ね上げて
鉄棒を引き寄せて
グルンと一回転
360度、天地、地天
おかえりなさい
足元に、空の青が映る水たまり
このまま手を離したら
水たまりの空にダイブできるかしら?
テーマ; 雨上がり
→享楽主義者の哲学
「勝ち負けなんて」???
これまた、すごいセリフが飛び出したもんだ!
ハハ、平等を気取ったつもりか?
そりゃ、いくらなんでも物事を斜に構え過ぎだよ。そこに賭ける努力までも蔑ろかい?
「勝ち負け上等!」
それくらいの啖呵を切るくらいの気概と余裕で、世の中を愉しんだほうが何かと楽だぜ。
テーマ; 勝ち負けなんて
→どうやら……
ここで拝読する限り
人の想像力は無尽蔵、との解を得たので
物語の数列は
無量大数だと思う。
テーマ; まだ続く物語
→短編・未練がましい
「だからね……ーー」
彼女が言いにくそうに僕から顔を背けたので、僕も天を見上げた。
薄曇りの雲が、空の高さの限界を作るように広がっている。
どうして僕らはこんなところにいるんだっけ?
そうだ、思い出した。僕は彼女とデート中で、手を繋いで公園を歩いてたんだっけ。これからどうするって相談したら、彼女はいきなり手を振りほどいて話し始めたんだった。
「私、もう貴方とは……ーー」
彼女は、途切れ途切れに話し続けている。僕は依然として空を仰いでいる。きっと彼女も僕を見ていないのだろう。言葉はコミュニケーション手段の一環だが、果たして今の状況もそう言えるのだろうか?
僕たちの隣を、学生たちが通り過ぎていった。別れ話かな? 彼らのヒソヒソ声が僕に現実を突きつける。
「今日で終わりにしたいの……」
それまでの言いにくそうな様子を吹っ切るように彼女は宣言した。まるで学生たちに後押しされたように。
僕は相変わらず彼女に向かい合えない。雲ばかりの空に起死回生の気配を探す。
雲の隙間に鳥が見えた。それを指さす。
「ねぇ、あれ、渡り鳥かな?」
彼女のため息と、遠ざかる足音がした。
テーマ; 渡り鳥