一尾(いっぽ)in 仮住まい

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11/27/2024, 8:06:45 AM

→短編・名作探訪 第72回
     酒造『機微』の『微熱』

 その人のそばにいると、微熱心地になる。どうにもできない熱が頬を染め、頭の奥がジンとしびれる。胸が早鐘を打ち、多幸感と恥じらいに居ても立ってもいられない……、それは初めての恋の記憶。
 嗚呼、あの時の初恋をもう一度。
 そんな望みを叶えてくれるのが、酒造『機微』の初恋焼酎『微熱』である。
 純度の高い初恋を蒸留して造られるこの焼酎は、新酒に似た尖った風味を舌に残し、若葉のような清々しくも苦い香りが貴方を昔日に誘う。
 仄かな酩酊の向こうに、初恋の人は見えますか?
 
※生産量は極めて少量。予約のみの販売となっている。

テーマ; 微熱

11/26/2024, 5:58:16 AM

→四季、お日さまを頂いて。

春、
心をくすぐるぽかぽか陽気。
ウズウズ、身体が動き出そうとする。

夏、
頭頂を刺すような熱気。
イベント満載、うだる暑さを吹き飛ばそう。

秋、
冷たい風を穏やかにする小春日和。
外で本を読むのに最適。お供は水筒のコーヒー。

冬、
白い息をかき消す、白い陽射し。
少し早足。木枯らしと歩く。


テーマ; 太陽の下で

11/25/2024, 2:27:41 AM

→短編・ラッキーアイテム

 私は、商店街のブティック(マダム向け)に勤めている。
 ある朝、店を開けるなり女性のお客さんが飛び込んできた。忙しなく視線を動かしている。
 何か目当てのものがあるに違いない。声をかけようかと思ったところで、彼女は瞳を輝かせ棚から赤いセーターを取り出した。
「これ、お願い!」
「試着は……?」
 ここで着替えさせて、と言う。試着室で彼女は快活に話し続けた。「今日のな、朝の占いのラッキーアイテム、赤いセーターやってん!」
 さらに曰く、仕事で大きなプレゼンがあるらしく、験を担ごうと思ったらしい。
 ありがとうございますと送り出すまで、彼女は明るく和やかに色々な話をしてくれた。
 可愛らしくエネルギッシュな彼女のおかげで、朝から清々しいスタートとなった。

テーマ; セーター

  ※ちょびっとだけ実話を元にしています。

11/24/2024, 9:33:05 AM

→短編・微睡みに落ちてゆく。
 
 寄せて引いて、深夜の眠気。
 まだ眠くない。想像を揺蕩わせて遊ぶ。

 時間を海だと思ってみる。
 そして時計の針は釣り針。毎日午前0時の長針が私から過ぎ去った今日だけを釣り抜いて行く。
 まるで脱皮。抜け殻の過去。
 私の抜け殻は、海底に落ちてゆく。今日と明日の狭間、深夜の海溝に。
 静かにゆっくり、しわくちゃの過去が結んで開いて。水は冷たいかい? 
 抜け殻は、やがて深海にたどり着く。
 過去が堆積した深海は、どんな具合だろうな。それをエサにする生物はいるのかしら? エビとか、タコとか?
 途端に、私の抜け殻とダンスするタコが頭に浮かんできた。おやおや、エビも踊ってる。

 寄せて引いて、深夜の眠気。
 私は微睡みに落ちていく。
 今日の夢は竜宮城が舞台になりそうです。
 
テーマ; 落ちていく

 

11/23/2024, 8:37:27 AM

→短編・ウッフッフ夫婦

「だからね! 夕方に近所の橋を渡る時に後ろを振り向いちゃダメなんだよ! お母さん、わかった!?」
 娘は小学校から帰るなり、真新しいランドセルを下ろしもせず、私にまとわりついて早口に言った。彼女が語ったのはよくある学校怪談の類だ。
「了解、青い橋のところだね」
 娘はホッとした様子で肩を落としたが、まだ疑心暗鬼らしい。
「お母さん、お仕事で使うでしょ? 帰るのが遅くなる時は本当に気をつけてね!」
 真剣な顔で私を見上げている幼い顔。私はその頬をそっと撫でた。
「うん、青い橋では前しか見ない」
 ようやく娘は安心したようで、よかったぁと私に抱きついた。

「で? 何が現れるって?」
 プシュッと夫の開けるビール缶の音がキッキンに響く。子どもたちとの嵐のような時間が過ぎ去り、大人ののんびりタイムだ。
 私は、夫がグラスにビールを注ぎ分ける様子を見守りながら答えた。
「ウッフッフ夫婦」
「そいつらが夕方の青い橋に現れる、と」
 夫の物言いは、どこか呆れたような調子を含んでいる。私は夫から受け取ったビールを飲んだ。冷たく苦い喉越しが心地よい。
「橋の中央で振り向いたら、ね」
 お互い、無言になった。
 よく見ると夫の肩が震えている。そして私も……。もちろん、それは恐怖ではない。
「そ、その夫婦がウッフッフって笑いながら後を追ってくる……って、それ、何だよ……。しかも、オチ無いし……」
「私にもわかんないよ。でも、あの子、この世で一番恐ろしい話みたいに話すし、笑っちゃいけないって堪えるの必死すぎて、それ以上はもう………!」
 娘の小さな世界の脅威をあからさまに笑うのは忍びないと、私たち夫婦はウッフッフと笑いを殺して肩を揺らした。

 後日、小学校高学年の長男に話を補完してもらったのだが、ウッフッフ夫婦は笑いながら追いかけてくるが、それ以上の悪さはしないそうだ。ウッフッフ夫婦が学校怪談に分類されるかどうかは学年と話術技量による、と冷静に締めくくられた。
 つまり、私の家族にウッフッフ夫婦を怪談話に昇格させる話術の持ち主はいないようだ。

テーマ; 夫婦

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