→短編・名作探訪 第87回
天麩羅屋台『天』の『衣替え』
『天』は、全国津々浦々を行脚する天麩羅屋台だ。
地どれの食材にこだわり、その土地の気候風土を加味して天麩羅に仕上げるので、同じ食材でも土地によって味が違う。例えばニンジンなどは、寒い地方では甘く、暖かいところではさっぱりと風味が立つ。店主の食材への深い愛情と探究心の所以だろう。
さて、メニューを持たないことで有名な『天』には、年に2度だけの特別コースがある。
それが、時候をコンセプトに掲げるコース『衣替え』である。人々が季節に装いを整えるように、『天』の天麩羅も時候に合わせて衣を変える。
コース『衣替え』は、同じ食材を薄衣と厚衣で提供される。衣という装いを変えた食材たちの異なる味わいは、いずれも滋味深いと評判を呼んでいる。
電話番号なし、予約不可。
屋台ののぼりを見かけたら、即来店が望ましい。
テーマ; 衣替え
→答えのない問い
声が枯れるまで泣いて
本当に僕の声が枯れたら
ちょっとばっかり、
あなたの笑顔を曇らせることはできますか?
急に別れたいと言われた僕は
そんなことを思わずにいられないのです。
これは未練でしょうか?
それとも怨嗟でしょうか?
テーマ; 声が枯れるまで
→毎晩のことなんてすけどね、
始まりはいつも
『→
テーマ; 〜〜〜 』
―と書くところから。
そんで始まる七転八倒からの七転び八起き。
出来が良ければ舞い上がり、
たとえ悪くとも喉元過ぎれば何とやら。
青いハートに感無量。
終わり良ければ全て善し。
テーマ; 始まりはいつも
→短編・天気予報
商店街で夏とすれ違い、思わず声をかけた。
「もう10月だけど、今年の南半球行きはどうしたの?」
「たまには秋の味覚を味わいたくて」と、夏は新米を片手に、魚屋で秋刀魚を買っていた。
平日狙いでホテルのスイーツビュッフェにも行くらしいので、まだもう少しこちらに滞在予定だそうです。
テーマ; すれ違い
→短編・秋バレ
「秋晴れってキライなんだよね」
「どうして?」
「少し寒いでしょ?」
「まぁ、夏とは違うね」
「心にまで通った風が、自分の中身をぜぇんぶばら撒いてしまうような気がする」
「身バレっぽい。晴れるんじゃなくて、バレちゃうんだ」
私のつまらない戯言に、彼はいつでも耳を傾けてくれる。
幼馴染だからかな? でも、それ以上にもなりたいな、なんて。でも、今の関係のほうがトクベツっぽいし……。私は幾つもの「でも」を繰り返す。
そして、最終地点。やっぱり彼が好き。もう少しこのままでいたい。
「今、どうして空を見たの?」
「何でもないよ〜」
高く晴れ渡る秋の空、この気持ちは内緒だよ。
テーマ; 秋晴れ