一尾(いっぽ)in 仮住まい

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10/8/2024, 2:44:06 AM

→短編・大事な思い出

 山の山頂にある夜景の見える公園で、一組の若いカップルがベンチに腰を下ろし、会話を交わしている。
 二人の距離は近く、親密な雰囲気が伝わってくるが、当時に微妙な緊張感も漂っていた。
「えっと……」
 男性が口を開いた。もう何度も同じ言葉を呟いては口を閉ざしている。
 眼下の町で夕食を食べ、この公園に来てから小一時間ほどが経過していた。
 女性は彼の言葉を待ったり、たまに自分から話をふったりしていたが、いずれにせよ二人の会話のやり取りが長く続くことはなかった。
 夏の終わり、涼しい風が彼女の薄いスカートの生地を揺らした。
 意を決したように男性が膝の上の拳を強く握った。それまで下げていた顔を彼女に向ける。
 言葉を待つ彼女の鼻腔がかすかに膨らみ、少し肩が上がった。
「あの……」
 男性は、彼女の待ちわびるような素振りに一旦は言葉を詰まらせたが、何度か首を横に降って気合を入れなおした。
「僕と結婚してください!」
 周囲に響き渡るようなプロポーズの声に、彼女の瞳が見開かれる。少し頬が緩み、口元がワナワナと震えながら開く。そして彼女の……――
「は……ッブェックション!!」 
       ション……
          ション…… 
             ション……
 山に響くクシャミは、彼のプロポーズの声量を遥かに凌駕していた。
「えぅ……、ご、ごめん。我慢しようとしたんだよ! でも、ちょっと冷えちゃって」
「いや、僕こそごめん。僕がマゴマゴしてたから」
 最悪のタイミングに返事を聞くこともできず、男性は「体調、大丈夫かな? 帰ろうか」と立ち上がった。不甲斐ない自分に自己嫌悪を抱くあまり、彼女を置き去りに歩きだす。
「ねぇ!」
 背後から呼びかけられ、彼は振り向いた。そこには、力いっぱいのクシャミに鼻を赤くした彼女の明るい笑顔があった。
「私たちが家族になる一番最初の思い出、コントみたいだねぇ」
「それって……!」
「力を込めて『イエス』!」

テーマ; 力を込めて

10/7/2024, 12:44:52 AM

→短編・小さいけれど大きな幸せ
        (タイトル変更 '24.10.7)
―ップシュッ!
「あ~、美味いなぁ」
 冷えた缶ビールを一気にあおった僕の声は浮かれている。
 そりゃそうだ。
 今日一日を振り返ると、ご機嫌にならずにいられない。
 奇跡的な一日だった。
 通勤では往復とも座ることができた。就業時間内にクライアントやら何やらに時間を取られず、自分の仕事をサクサクこなせた。ペットボトルのキャンペーンで、QRコードを読み込んだら結構な額のポイントが当たった。帰り際にスーパーに寄れば、午前中には売り切れるというコロッケのアツアツが買えた。何なら、最近爆売れで手に入らないと噂のビールまでゲットできた!
「上出来な一日だったなぁ」
 ビールで喉を潤して、コロッケに箸を入れる。サクッと衣の音が心地良い。早速一口。ほんわかしっとりじゃがいもの食感と、少し甘めの味付け。
「幸せだなぁ」
 しみじみ想う。本当に僕には過ぎた一日だったなぁ、と。

テーマ; 過ぎた日を想う

10/5/2024, 10:11:10 PM

→短編・その集まり

その集まりの名は明かせない。
目的も会話内容も口外することはできない。
私の明かすことができる唯一の情報は、その集会はロウソクを囲んで星座をなす、ということだ。
え? 星座を知らない? そんなはずはないだろう。
ちょっと待ってくれ。こんなところで話を止めるなよ。まさか君は車座を知らないとは言わないだろう?  
そう、車座とは荷車の車輪のように円になって座ること! そう、正解! やっぱり知ってるじゃないか。
つまり、星座っていうのは……――

テーマ; 星座

10/4/2024, 8:02:24 PM

→まずは一礼

軽妙な描写のBGM
肉薄する表現でポーズを決めて
文字と文字のあいだ、くるりと回って
行間と段落の隙間、ステップを踏んで
華やかに第一章
優雅に第二章

さぁ、生意気なダンスを踊りませんか?

              (於 図書館)

テーマ; 踊りませんか?

10/3/2024, 3:08:15 PM

→お便り・すべての師匠的皆さまへ

巡り会えたらサインください。
文章の技巧と、創作のコツを教えてください。

※「お気に入り」は「玉手箱」だと思います。「みんなの作品」は癒やしと驚きに満ちていて……、ホント、善きappですよ。

テーマ; 巡り会えたら

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