青い空、白い雲
花壇の中には色とりどりの花
手を繋ぎながら歩いているカップル
サッカーをしている少年
お互いのスマホを覗きながら笑い合う女子高生
すぐ目の前にはこんなにも素敵な景色がひろがっている
それなのに一生この部屋から出ることは出来ない
手足があっても私はただのぬいぐるみなのだ
理解していていてもどうしても考えてしまう
私も動けたらな…と
〖 窓越しに見えるのは 〗
赤い糸と聞いたら皆は何を思い浮かべるだろう
運命の赤い糸?あの歌手の歌?それともゲームのアイテム?
大半の人はロマンチックに運命の赤い糸と答えるだろう
けど私は運命の赤い糸なんて答えないし、そんなもの信じない。
私は由緒正しい家柄の一人娘で産まれる前から親同士が決めた許嫁がいるらしい。
自由恋愛なんて許されず小学一年の頃、好きな人が出来たなんて言えば次の月にはその子は転校した。
その頃からドラマや漫画のような運命の赤い糸なんて信じなくなった。
高校生になり周りでは誰と誰が付き合ってるだの、あの先輩かっこいいだのそういう話ばかり
けれどそういう私もお年頃、唯一の楽しみがある
それはお昼休み、いつも4人で推しやメイクなどの話に花を咲かせる
そしてゆっくり彼を見ることが出来る大切な時間だ。
初めて彼を見かけたのは入学式から1週間が経った時
移動教室で廊下を歩いてた時に仲間内でワイワイやってる彼を見かけた。
話したこともなければ同じクラスでもないが何故かその時から廊下ですれ違う度に自然と目で追っていた
小学校のあの時以来好きな人を作らなかった私が久しぶりに恋をしたのだった。
入学してから半年、今のいままで彼と話したこともない
ただ遠目から眺めるだけ。
でもそれでいい、万が一付き合えたとしても両親にバレないようにすることは到底出来ないだろうし
顔も知らない許嫁がいるから付き合ったとて未来がない
だから学生時代のいい思い出になるよう彼に私の気持ちを知られないまま卒業しよう、その時まで久しぶりの片思いを楽しもうと決めたのだ。
夜、食事をしていると父が
「今週の土曜日は昼から大事な用事があるから、早く起きるんだぞ」
と言ってきた、大事な用事なんてあったか考えていると
「あなたに許嫁がいることは話してたわよね?
その人と顔合わせするのよ。大丈夫、向こうの家の人達は気さくな方ばかりだし、きっとその人のことも気に入るわよ」
母がとても嬉しそうに話す
あぁ、ついに来てしまったかと思った。
話には何度か聞いていたが家柄の話ばかりで、相手の年齢も知らないし写真すら見たことがない
そんな状態で大丈夫と言われてもこちらとしては不安でしかないが、両親の言うことは絶対なので
『わかりました、準備しておくね…。』
…とても憂鬱だ
土曜日、約束の日、そして私の片思いが終わる日
今までは許嫁のことを何も知らなかったから誰にも言わず自分の心の中で片思いを楽しもうと思っていたが
知ってしまったらさすがに浮気をしているみたいで気が引ける、だからこの日顔合わせが終わったらきっぱり彼の事は忘れようと決めた。
少し緊張しながら座敷で両親と待っていると襖からカタッと音がした
どんな人か想像しながら無礼のないように挨拶をする
『お初にお目にかか……り…ます…。』
顔を上げるとそこにはいつもの制服とは違い、着物を着ている彼がいた
「はじめまして。って言っても、同じ学校でしたね。」
運命の赤い糸なんて信じないと決めていたのに…。
小さい時の私は世界が輝いて見えた
例えば買い物の帰り道にカエルを見つけたら母に向かって
「このカエルさんは悪い魔女に魔法をかけられちゃって
きっと今お姫様を探してるんだ!」
とよく話していた。
よく言えば想像力が豊かだったのだ
その中でも1番好きだったのは自分の誕生日が近くなると見え始める入道雲だ
いつも遠くに見える入道雲の中では私の誕生日を祝ってくれるためのパーティーが開かれてると思っていた
「あの中にいるのは妖精さんかな、それとも動物園のうさぎさん達…大好きなお話のお姫様かも!
ねぇお母さん、いつになったらあの中に行けるの??」
『そうねぇ…もう少し大きくなったらかな?』
「あーぁ、早くあの中に行けるようになりたいなぁ」
なんて会話を母と毎年していた
成長していくにつれてそんな想像はしなくなったが
入道雲を見るとその時の気持ちを思い出せるから好きだった
…今は大嫌いだ
中学生2年生の時思春期真っ盛りだった私はいつも母にあたっていた
誕生日の時も
「なんでこのケーキなの!
今年はいつものケーキじゃなくて駅前のがいいって言ったじゃん!」
『ごめんね…雨が降ってきちゃったから駅まで行けなくて…』
「そんなの理由になんないじゃん!もういらない!」
『ごめんね…』
ケーキなんて何でも良かった、けれどその日も何故か無性にイライラしていてあたってしまったのだ
自分の部屋に行きスマホを触っていたがいつの間にか眠ってしまっていて
家の電話の音に起こされた
すぐ母が出ると思っていたがずっと出なくてまたイライラしながらリビングへ向かって電話に出た
「はい、もしもし?………………え?」
母が亡くなった
暴風雨の中買い物に出ていたらしくその時にブレーキの効かなくなった車と衝突し打ちどころが悪くそのまま…
母か確認して欲しいと言われた場所へ向かい間違いのないことを伝えると警察の人からグシャグシャの箱を渡された
『きみのお母さんが買ったものだと思う
今日は入道雲がこっちに向かってきていて雨風が強いから外に出ないようテレビとかでも言ってたんだけど…』
あぁ…私のせいだ
私があんなわがまま言ったから、母にあたったから…
小さい頃入道雲の中ではパーティーが行われていると信じて疑わなかった
それがこんな形で入道雲の本当の姿を知ることになるなんて
その日から入道雲を見ても何も思わなくなった
昔の輝きを私の心の中でそっと蓋をしてこのまましまっておく
またいつか輝きを取り戻せる日まで
暑くなってセミの鳴き声がきこえ始める
僕はこの季節が好きだ
夏祭りの賑やかな人の声、花火、どこかの家の風鈴の不規則だけど涼し気な音
そしてまた少し大人になった君が来てくれる
新しく恋人ができても僕のところに来てくれる
一昨年と去年は君の姿が見えなかったけど、理由がわかったよ
今年は君そっくりの小さな女の子と優しそうな男の人と3人で来てくれた
君と男の人が水を入れに水道の方に行ってる間に
小さな女の子が僕の好きな瓶ラムネを置いてくれた
僕のお墓に手を合わせて色んな話をしてくれる
君と同じ時間を過ごすことは出来なかったけど、君が幸せそうで僕は嬉しい
だから僕は夏が好きだ