小さい時の私は世界が輝いて見えた
例えば買い物の帰り道にカエルを見つけたら母に向かって
「このカエルさんは悪い魔女に魔法をかけられちゃって
きっと今お姫様を探してるんだ!」
とよく話していた。
よく言えば想像力が豊かだったのだ
その中でも1番好きだったのは自分の誕生日が近くなると見え始める入道雲だ
いつも遠くに見える入道雲の中では私の誕生日を祝ってくれるためのパーティーが開かれてると思っていた
「あの中にいるのは妖精さんかな、それとも動物園のうさぎさん達…大好きなお話のお姫様かも!
ねぇお母さん、いつになったらあの中に行けるの??」
『そうねぇ…もう少し大きくなったらかな?』
「あーぁ、早くあの中に行けるようになりたいなぁ」
なんて会話を母と毎年していた
成長していくにつれてそんな想像はしなくなったが
入道雲を見るとその時の気持ちを思い出せるから好きだった
…今は大嫌いだ
中学生2年生の時思春期真っ盛りだった私はいつも母にあたっていた
誕生日の時も
「なんでこのケーキなの!
今年はいつものケーキじゃなくて駅前のがいいって言ったじゃん!」
『ごめんね…雨が降ってきちゃったから駅まで行けなくて…』
「そんなの理由になんないじゃん!もういらない!」
『ごめんね…』
ケーキなんて何でも良かった、けれどその日も何故か無性にイライラしていてあたってしまったのだ
自分の部屋に行きスマホを触っていたがいつの間にか眠ってしまっていて
家の電話の音に起こされた
すぐ母が出ると思っていたがずっと出なくてまたイライラしながらリビングへ向かって電話に出た
「はい、もしもし?………………え?」
母が亡くなった
暴風雨の中買い物に出ていたらしくその時にブレーキの効かなくなった車と衝突し打ちどころが悪くそのまま…
母か確認して欲しいと言われた場所へ向かい間違いのないことを伝えると警察の人からグシャグシャの箱を渡された
『きみのお母さんが買ったものだと思う
今日は入道雲がこっちに向かってきていて雨風が強いから外に出ないようテレビとかでも言ってたんだけど…』
あぁ…私のせいだ
私があんなわがまま言ったから、母にあたったから…
小さい頃入道雲の中ではパーティーが行われていると信じて疑わなかった
それがこんな形で入道雲の本当の姿を知ることになるなんて
その日から入道雲を見ても何も思わなくなった
昔の輝きを私の心の中でそっと蓋をしてこのまましまっておく
またいつか輝きを取り戻せる日まで
6/29/2023, 12:18:18 PM