『距離』
誰かとの理想的な距離を考えるとき、
あなたとはやっぱり0がいい。
でも少しだけ、ほんの少しだけは、
知らなくてもいいこともあると思うから。
知られたくないこともあると思うから。
0.1くらいの優しい隙間を空けておこう。
『あなたとわたし』
あなたとわたしは、とてもよく似ている。
口に出さなくても、お互いに理解できることが嬉しかった。
笑うところや怒るところが同じで楽だった。
嫌がることは先回りして回避できた。
相手の望むことをしてあげられた。
だから今、あなたがどれだけ隠そうとしてくれても、
離れていく気持ちがわかりすぎて苦しい。
あなたとわたしが、似ていなかったらよかったのに。
『哀愁を誘う』
服を捨てるのが苦手だ。
一目惚れして思い切って買ったとか、大事な日に着ていたとか、好きな人に褒められたとか。
どの服にも、思い出が絡み付いていて中々捨てられない。
ただ、そんな訳にもいかないのが服というもので。
明日が回収日か…、と考えながら、もう着ないであろう服を選んで袋に詰めていく。
ハンガーに綺麗に並んでいたお気に入りたちが、役目を終えてくしゃくしゃになっていく。
回収場所にそっと置くときはいつも胸が痛んで、振り返った丸い袋のシルエットが哀しい。
『もう一つの物語』
○○しなければ、なんて想像を、これまでに何度したかわからない。
選ばなかった別れ道の先は、いつも理想的に輝いたものに思える。
想像上だけの、もう一つの物語。もう一人の私。
そんなものよりはきっと、私が選んだこの一つが私らしさであって。
例え時間を巻き戻せたとしても、またこの道を選びたい、と、最期の時に言えるように。
『紅茶の香り』
受験生だった頃、母がよくミルクティーを作ってくれた。
お鍋でゆっくりと茶葉を開かせて、たっぷりのミルクとお砂糖。
疲れた頭を撫でてくれるような優しい味と香りが大好きで。
作り方は同じのはずなのに、どうして再現できないんだろう。