花の香りと共に
桜の花の香りと共に、暖かい春はやってくる。
「今年もそろそろ満開になりそうだなぁ」
通勤に使う桜並木を歩きながら小さくつぶやいた。
この道は、入学式に行くため両親に手を引かれながら
歩いた時はもっと長く感じたっけ。
そして、魔法の国から来たあの子と出会ったのも
ちょうどこんな季節だった。
「元気にしているかな、また会いたいな」
花の香りは、思い出を引き出してくれるって聞いたことがあった。大切な思い出たちを胸に抱えながらいつもの道を歩いていった。
新たな始まりのように咲き誇る花々に想いを馳せて。
誰かしら?
「えーと、白の糸に赤の糸、ネジ10本、それからりんご8つと。よし、全部揃ってる!」
団長におつかいを頼まれて、街まで向かった私は目的地にあるマーケットで無事に買い出しを終えた。
品物が全て揃ったことを確認して、トレーラーへと急いだ。ふと後ろから
「ねぇ、あなた○○ちゃん?」
いきなり声をかけられて、振り向くと見知らぬおばさんがいた。○○は私の名前ではない。
「あの、私は○○ではありませんよ?」
「え、○○ちゃんではないの?あの家に暮らしていた家族の子じゃ…」
「すみませんが、私…家族はいませんしこの街には仕事で初めて来たんですよ」
自分とは違う名前で呼ばれたのは違和感しかないし、この街に住んでいた記憶もない。
「…そうなのね。間違えてごめんなさいね」
おばさんはとても悲しそうな顔をしていた。
「いえ、とんでもないです」
失礼しますと告げて、私は走り去った。
なんだか胸がザワザワしている。
「あの人一体誰なのかしら?私に家族はいないって言った時すごく悲しそうな顔をしていたけど…」
もしかして、私の知らない私はこの街に住んでいたのだろうか?
よくわからない感情のまま、私は仲間たちの元へ帰った。
さぁ冒険だ
大型のトレーラー、舞台装置
舞台衣装にたくさんの照明
そして、私たち劇団員
拠点のない旅はまだまだ続く。
非日常を求める人々がいる限り
私たちの冒険は終わらない
「みんないるな?さぁ、次の場所へ出発だ!」
団長の声とともに、私たちは新たな舞台へ
旅立った
未来の記憶
未来の記憶は見えるのに過去がもやがかかって見えてこない。ただ一つだけ覚えているのは、君だけは逃げるんだって叫ぶ青年らしき人物のシルエットだけだった。
私は過去のことがあまりわからない。
どこの誰なのかわからない。
それを今お世話になっている旅芸団の仲間の1人に話した。
「わからないなら、わからないままでいいんじゃないかな?もしかしたら、君にとって辛くて悲しいことが多い可能性もあるかもしれないよ。だから無理に急いで思い出さない方がいいかも」
それに、未来をどうしていくかの方が大事かな私は。と最後に私に笑いかけた。
過去のことはやっぱりわからない。
けど、今目の前にいる仲間たちのことは大切にしたい。
自分の未来を作っていくために。
ココロ
私は自分の物も含めて人の心からの感情を垣間見るのが苦手かもしれない
その感情を自分のものとして受け入れたくない
その感情をまっすぐに受け止めるのが怖い
そう悩むこと自体疲れてしまった