木枯らし
木枯らしの吹く夜、私は1人で街を彷徨っていた
どこにも居場所がなく苦しかった。
「誰も、私を辛さわかってはくれないんだ…」
気づいたら、見覚えのない屋敷の前にいた。
驚いていると、ちょうど誰かが屋敷の中から現れた。
黒いローブに、雪のように白い肌、真っ赤な瞳。
やばいと思った時にはもう遅かった。
気づいたら、私は今まであった辛い話を全て話していた。
「あのさ。そんなに辛いなら…もう人間なんか辞めちまおうよ」
「は…?」
人間を辞めたいとまでは考えてない。
「無理にとは言わないよ〜。でも、そんなに苦しく心が血を流しているなら、辛くて仕方ないならさ、輪廻の輪から外れて俺の仲間にならない?」
それに、俺手下を作らないとクビになっちゃうんだよねぇって冗談めかして言った。
彼の手を取ってからのことは、あまり覚えていない。
ただ、私の目の前は赤く染まったかつての同胞で溢れていた。
私は空腹が満たされた気持ちと同時に、もう二度元には戻れない一線を超えたことに気づいた。
苦しい時に差し伸べられる手は楽園か地獄か。
もし人間を辞めてしまおうと言われたらあなたは抗えますか?
この世界は
この世界は、悲しくて尊い。
私はこの家に100年以上棲みついている日本人形。
小さなこどもには、私が動けることがわかるみたいで
遊び相手になったり、1人遊びを見守っていた。
でも、みんな大人になったら旅立ってしまう。
こどもの成長は嬉しくもあるけど
いつも見送ってばかりなのは
拭えない寂しさがあった。
夢を見てたい
また同じ夢を見た。
大好きな友人と肩を並べ、笑い合いながら街を歩いた
ありふれていたけど幸せだった日々。
だが、場面は一転した。
温かい光は消え黒い闇が彼女を抱きしめるように包み
私は、ものすごい引力に引かれるように引き離された。
「っ!待ってよ!どうして⁉︎」
離される前に一瞬だけ見えた彼女の顔は申し訳ない表情で何かを伝えていた。
ごめんねなのか、さよならかもわからずにそこで終わった。
目覚めた時、私は酷く汗をかいていた。
「夢か…」
小さく呟いた私の声は、弱々しく聞こえた。
友人を連れていった黒い闇はおそらく人ならざる者だろう。
思えばよく不思議な生き物に好かれやすいて言っていた。
でも、彼女が自ら近づいたのは今回が初めてだった。
あの黒い闇から僅かに見えた愛おしげに見つめる眼差しも気になった。
彼女も、何か思うところがあったのかもしれない
「私は、どうすればよかったの…?もっと力になれたらよかったのかな…」
いつまでも一緒にいる日々を、ずっと夢見ていたかった。
ずっとこのまま
ずっとこのまま、永遠に俺と生きてほしい
ずっとこのまま、貴方と生きていたい
報われぬ願いは、闇夜に消えていった
三日月
「月が綺麗ですね」
そう呟き微笑む彼女は
月から舞い降りた女神のように美しかった
「僕もちょうど同じことを考えていました」
ゼロ距離の2人を、三日月と満天の星だけが
見つめていた