この世界は
この世界は、悲しくて尊い。
私はこの家に100年以上棲みついている日本人形。
小さなこどもには、私が動けることがわかるみたいで
遊び相手になったり、1人遊びを見守っていた。
でも、みんな大人になったら旅立ってしまう。
こどもの成長は嬉しくもあるけど
いつも見送ってばかりなのは
拭えない寂しさがあった。
夢を見てたい
また同じ夢を見た。
大好きな友人と肩を並べ、笑い合いながら街を歩いた
ありふれていたけど幸せだった日々。
だが、場面は一転した。
温かい光は消え黒い闇が彼女を抱きしめるように包み
私は、ものすごい引力に引かれるように引き離された。
「っ!待ってよ!どうして⁉︎」
離される前に一瞬だけ見えた彼女の顔は申し訳ない表情で何かを伝えていた。
ごめんねなのか、さよならかもわからずにそこで終わった。
目覚めた時、私は酷く汗をかいていた。
「夢か…」
小さく呟いた私の声は、弱々しく聞こえた。
友人を連れていった黒い闇はおそらく人ならざる者だろう。
思えばよく不思議な生き物に好かれやすいて言っていた。
でも、彼女が自ら近づいたのは今回が初めてだった。
あの黒い闇から僅かに見えた愛おしげに見つめる眼差しも気になった。
彼女も、何か思うところがあったのかもしれない
「私は、どうすればよかったの…?もっと力になれたらよかったのかな…」
いつまでも一緒にいる日々を、ずっと夢見ていたかった。
ずっとこのまま
ずっとこのまま、永遠に俺と生きてほしい
ずっとこのまま、貴方と生きていたい
報われぬ願いは、闇夜に消えていった
三日月
「月が綺麗ですね」
そう呟き微笑む彼女は
月から舞い降りた女神のように美しかった
「僕もちょうど同じことを考えていました」
ゼロ距離の2人を、三日月と満天の星だけが
見つめていた
色とりどり
この世界にやってきて、彼女と出会ってからは
人生は鮮やかに色づいていった
私の目に映る全てが美しくみえた
白さと桃色が合わさった桜
爽やかな芝生の緑
紫の藤の花のカーテン
どこまでも青い海
柔らかな黄色い光が包み込む夜
夕闇に染まる朱い空
白銀の雪
ありふれた季節も、色とりどりで美しいのは
彼女が隣で花の名前を笑顔で教えてくれたり、暑さや寒さを共有できたりと一緒に幸せを感じられるからなのかもしれない。
魔法の修行に負けないくらいの宝物を、私は見つけていた