紅華

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11/11/2023, 1:57:28 PM


空を飛ぶ鳥に憧れていた。

空を飛ぶヘンテコな鳥が羨ましく思えた。

空を飛べるようになりたくて、頑張って【翼】を動かしてみたけど飛べなくて、何度も何度も地面にぶつかって、傷だらけになっていた。

周りの連中から「お前バカだなぁ、オレたちは飛べないんだよ」や「諦めろ。そういう運命に生まれたんだからさ」なんて言われた。

でも、それでも、僕は空に憧れを抱いている。

いつか、海ではなく空を飛べたペンギンの第一号になりたい。

だから、今日も僕は、空を飛べるように短い翼をばたつかせた。

11/9/2023, 7:04:55 AM


意味がないなんて言わないで。

あなたが、この世界に生まれた瞬間から意味のある存在になったのだから……。

だから、『生きている意味がない』なんて言わないで。

11/6/2023, 4:15:52 PM



人間にとって雨は鬱陶しいモノだという。

たしかに、雨の日は【ココロ】がどんよりと落ち込んでしまう日だと思う。

だけどね、ワタシたち【植物】にとっては大切なモノなんだよ。

太陽が出ている日があると人間は喜ぶ。
たしかに、ワタシたち【植物】も太陽の光を浴びて、光合成と呼ぶモノをする。光合成は大切なモノだからね。

でもね、太陽ばかりはダメなんだよ。
太陽ばかり浴びてしまうと、ワタシたち【植物】は枯れてしまう。人間の言うところの【死ぬ】と呼ぶモノ。

ワタシたちは、枯れたら二度と元には戻らないの。
だからね、太陽だけじゃなく雨も大切なの。

とくに優しく降ってくれる雨が好き。
とても気持ちよくて、元気になるの。
あぁ、でも、強い雨の日は少し苦手かな。風も強くなるし、飛ばされてしまうかもって、いつもヒヤヒヤ。
だから苦手。

あ、雨が降ってきた。今日は優しい雨だといいな。

11/6/2023, 7:10:46 AM


芥川龍之介の小説に出てくる『蜘蛛の糸』のように現実にも、一筋の糸が降りてくれば、俺の人生は変わっていたかもしれない……。

今日も未払い分の金を取りに、借金取りが自宅の玄関のチャイムを鳴らしまくる。
三年前に妻に逃げられてから小さなアパートに男一人。寂しく暮らしている。仕事も上手くいかず、生活できる金が底をつきそうになった時、闇金へ手を出してしまったのが全ての終わりだった。

「いるんでしょ? 開けてくださいよー!」
柔らかい声で言ってはいるが、戸を叩く音は凄まじい。近所迷惑だからやめてくれ、と心の中で唱えるもチャイムの音と戸を叩く音は止まなかった。
耳を塞いで時間が過ぎていくのだけ待った。
「開けてくださいー! 居留守するのはやめてくださいー」


もう、限界だ。


俺は台所から刺身包丁を手に持つ。妻がいた頃はよく生の魚を捌いてあげていたものだ。
刺身包丁を手に玄関へ向かう。
「早く出て来いよ!」
闇金の声が悪くなるのを無視し、玄関の鍵を開けた。
「ん? なんだ?」
闇金の視線が玄関から逸れた。俺は刺身包丁を闇金へ突きつけた時、「パパ」と子供の声が耳に入った。
闇金の隣に男の子がいた。妻の顔立ちにそっくりの男の子だ。そして、俺の息子だ。
「あ、あぁ……」
俺は刺身包丁を床に落とした。闇金は床に落ちた刺身包丁を見て顔を真っ青にさせた。
「お、おまっ……!」
「命拾いしましたね」
俺の正気のない声に闇金は、そそくさと逃げて行った。

「パパ」
息子が俺に近寄って来た。俺は両手を広げて抱きしめる体制になる。しかし、現実は惨いものだ。
「アキト!」
妻がやって来た。どうやら息子のアキトは、勝手に俺の家に来たみたいだった。
妻は俺からアキトを奪うように、アキトを抱っこした。
「ミユキ……」
「アキト、ここに来たらダメよ。いいね」
「なんで?」
「なんでもよ」
ミユキは俺の顔を見ずにアパートの階段を降りて行った。
俺は力無く刺身包丁を眺めた。

カンカン、と階段を駆け上がる音が聞こえた。
とうとう俺も豚箱行きか……。さっきの闇金が警察に連絡でもしたのだろう。
「最後に抱っこしたかったなぁ」
しかし、そこに現れたのは警察ではなかった。
「パパ!」
アキトだった。アキトが走ってきて、俺の体も自然と走ってくるアキトへ向かっていた。
「パパ! だっこしてー!」
アキトが小さくジャンプして俺は受け止めた。
「パパ、あのね、はやくおうちにかえってきてね!」
アキトはそれだけ言うと、妻の元へ戻って行った。
俺は年甲斐もなく泣きじゃくった。
日が暮れるまで泣きじゃくったのだ。


芥川龍之介の小説に『蜘蛛の糸』という話しがある。
一筋の糸を垂らし、罪人を引き上げるという話しだ。
蜘蛛の糸の結末は最悪だったけど、俺の結末はまだまだ先のようだ。
俺にも蜘蛛の糸ではない。一筋の光が差し出されたのだ。息子のために生きるという、わずかな光が差し込んだのだ。

11/4/2023, 4:30:39 PM


トントン、トントン。

夕餉の仕度をする音がする。
台所の小窓から夕陽の光が家の中を照らしている。
まだ、腰の曲がっていない祖母の後ろ姿を、幼いわたしが見ている。

トントン、トントン。

味噌汁の香り、野菜を切る包丁の心地よい音。
そして、夕焼けの色が温かくこの空間を包んでいた。
わたしは、祖母の背中に抱きついた。

トントン、トントン……。

包丁の音が止み、祖母のシワシワの手がわたしの頭を撫でた。
「もうすぐで、ご飯できるからね」
優しい声で祖母は言う。

トントン、トントン。

その祖母はもういない。
この包丁の音は、わたしが出している音。
拙い包丁の音色を奏でながら、わたしは夕餉の仕度をするのだった。

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