紅華

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トントン、トントン。

夕餉の仕度をする音がする。
台所の小窓から夕陽の光が家の中を照らしている。
まだ、腰の曲がっていない祖母の後ろ姿を、幼いわたしが見ている。

トントン、トントン。

味噌汁の香り、野菜を切る包丁の心地よい音。
そして、夕焼けの色が温かくこの空間を包んでいた。
わたしは、祖母の背中に抱きついた。

トントン、トントン……。

包丁の音が止み、祖母のシワシワの手がわたしの頭を撫でた。
「もうすぐで、ご飯できるからね」
優しい声で祖母は言う。

トントン、トントン。

その祖母はもういない。
この包丁の音は、わたしが出している音。
拙い包丁の音色を奏でながら、わたしは夕餉の仕度をするのだった。

11/4/2023, 4:30:39 PM