望月

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3/17/2025, 8:28:24 AM


《花の香りと共に》

 純潔。無垢。無邪気。誇り。高貴。
 白百合の香りは、いつだって笑顔を運んでくれる。
 どんなときも、そうだ。
 あれは少し暖かい季節のこと。
「本当に好きだよな、その花」
「うん、大好き! 落ち着くんだよね、なんだか」
 呆れて言ったわけではないが、シリスの自然と漏れたため息に、
「私が花から離れないからって、怒らないでよ〜」
「違う、偶然だ。……もう少し距離をとってほしいのは事実だけどな」
「それは難しい相談かな!」
「あぁ、知ってた」
 間髪入れずにセナの拒否の声が届き、適当に返す。
 シリスも、既に幾度か試したのだ。
 それとなく離れてみたり、手を引いたり。
 まぁ、どれも無駄に終わったことである。
「……さて、と。そろそろ行くか?」
「もうそんな時間か、わかったよ。……行きたくないなぁ〜」
「文句言ってないで、ほら」
 セナはシリスの手を取って立ち上がった。
 その拍子に、ふわりと百合の香りが広がる。
「諦めて頑張るとするかな……マナーだっけ?」
「違う、普通に公務だろ……」
「あ、そうでした。シリスありがとう! それじゃあ行こうか——参りましょう、シリス」
「……はい、セリーナ王女殿下」
 二人は連れ立って中庭から去った。
 二人きりのときだけが、二人が仮面を外すときだ。
 それは決まって、この中庭である。
 王城で唯一中庭で咲く、白百合の花が風に揺れて香りが綻んだ。

3/10/2025, 4:09:37 PM

《願いが1つ叶うならば》

 英雄、賢者、神に最も近しい者、英傑、神童、最高峰の魔術師、大魔法士、最強の魔法使い、神の愛し子、魔道の申し子、恩人……。

 数々の名を有する彼は、神の前に座した。
 三十を過ぎたにしては若々しい姿であった。
 偉業を成し遂げた報酬を授かる為、である。
 神が彼の功績を称え、なんでも1つ叶えてくれるというのだ、本当に“なんでも”だろう。

「……では、家族を、望みます」

 1呼吸おいて彼はこう言った。

 神は、ただ何も言わず、この世から静かに外れてしまった。
 神官長を依代として、降臨していただけなのだ。

 そうして彼の願いは聞き届けられた。
 直ぐに恋人ができ、妻となり、子も2人と生まれる。
 そうして、家族ができた。

 その半年後、彼は、自ら命を絶った。

「……わたしが求めていた家族は、妻や子ではないのてす。神よ、わたしは両親と出逢いたかっただけのことなのですから……」

 そう言って、亡くなったそうだ。

 孤児であった彼の両親がどこに在るのかは、まさに、神のみぞ知る。
 しかしして、神は、人心を介さぬ存在であった。

2/19/2025, 3:40:11 PM

《あなたは誰》

 誰ソ彼?

 汝ガ疵、快癒ス者ナリ。

 ……真カ?

 単ニ其ヲノミ希ウ。

1/25/2025, 1:34:28 PM

《やさしい嘘》

 おれが、ころした。

 それ以外の選択肢なんてなくて、どうしようもなかった。仕方のないことだったんだ。
 暴力で訴える様な人に、平和的解決なんて求めたって仕方がない。だから、殺した。
 この行動は良いことではなくて、誰に褒められることでもないとは分かっていた。
 それでも、やるしかなかったんだ。
 選べなかった。
 誰も傷つかずに済む方法を。
 思い付けなかった。
 俺は、余りにも弱かったから。
 選べなかった。
 ……俺は選ぶことの出来るほど、強くはなかった。
 ただ、それだけだ。
 もういいだろ。
 あの子は、あの場に居やしたが消すほどじゃなかっただけだ。
 ……あぁ、そうかい。

 ——これで俺が、人殺しに成れたのか。

1/19/2025, 4:01:11 PM

《ただひとりの君へ》


 君が生きていることに、意味など存在しない。

 その代わり、君は君自身でその意味を付けられる。
 
 他人の付けた意味に真の価値が在ろうか。

 それは、君の人生であり君の生命なのだから。

 意味を見い出せない?

 違うな、見出そうとしていないだけだ。

 モノの見方を変えろ、思考を切り替えろ。

 君自身で生きていることの意味を見つけるまでは。

 生命でもって、君の物語を書ききれ。

 今までそうしてきたんだ。

 だから、これからもできるさ、大丈夫。

 人生という名の、物語の書き手は必要だ。

 生きたい意志という名の、筆を決して折るな。

 君なら、大丈夫。

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