望月

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《願いが1つ叶うならば》

 英雄、賢者、神に最も近しい者、英傑、神童、最高峰の魔術師、大魔法士、最強の魔法使い、神の愛し子、魔道の申し子、恩人……。

 数々の名を有する彼は、神の前に座した。
 三十を過ぎたにしては若々しい姿であった。
 偉業を成し遂げた報酬を授かる為、である。
 神が彼の功績を称え、なんでも1つ叶えてくれるというのだ、本当に“なんでも”だろう。

「……では、家族を、望みます」

 1呼吸おいて彼はこう言った。

 神は、ただ何も言わず、この世から静かに外れてしまった。
 神官長を依代として、降臨していただけなのだ。

 そうして彼の願いは聞き届けられた。
 直ぐに恋人ができ、妻となり、子も2人と生まれる。
 そうして、家族ができた。

 その半年後、彼は、自ら命を絶った。

「……わたしが求めていた家族は、妻や子ではないのてす。神よ、わたしは両親と出逢いたかっただけのことなのですから……」

 そう言って、亡くなったそうだ。

 孤児であった彼の両親がどこに在るのかは、まさに、神のみぞ知る。
 しかしして、神は、人心を介さぬ存在であった。

3/10/2025, 4:09:37 PM