望月

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7/14/2024, 9:58:52 AM

《優越感、劣等感》

 違いなんてな、これと言って無いんだよ。

 他人と違うこと。

 過ぎれば身を滅ぼすこと。

 ほら、これは共通してることだろ?

 違うのはな。

 優か、劣か。

 文字とか、音くらいなのさ。

 師匠からの大切なお言葉だ、忘れんなよ?

 

7/13/2024, 9:42:32 AM

《これまでずっと》

 あの日、私の彩の無い世界は壊れた。
 屋上で出会ってしまったから。

 ——フウカ。

 それが、破壊神の名前だった。


 幼少期から、友達というものが殆どなかった。
 それでも、ずっと同じだったから、不思議と悲しくもなかった。
 淋しくともなかったし、寧ろ一人遊びは好きだった。
 誰も私を傷付けない世界。
 矛盾など存在せず、ただあたたかで優しい世界。
 それが私を満たしていた。
 なのに、たった十七年でその世界は終わりを知る。

「ここで何してるの?」

 放課後、立ち入り禁止のテープの剥がれた屋上へと続く扉を開いたのは、髪を二つに結んだ彼女。
 彼女はフウカと言った。
 そして、彼女は私の友達となった。
 後から知ったことだが、フウカは向かいの棟の教室で、同学年の生徒だった。
 廊下ですれ違っても、私たちは会話をしない。
 挨拶も、目を合わせることさえしない。

「暇なの? また空なんか眺めて」
「だったら、話し相手にでもなれば」

 放課後、約束もせずに出会えた時だけ、声を交わすのだ。
 きっと少し変わっている関係性。
 それでも、丁度いい距離感だった。
 そんなフウカと過ごす日々が、特別だった。

 一年経って、フウカは突然現れなくなった。
 そして私の世界はまた、彩をなくした。
 けれど、戻っただけだ。

「これまでずっと、独りだったじゃないの」

 私は涙が出る理由がわからなくて、ひたすらに目を擦った。
 そして、認めた。

 フウカは、たった一年の付き合いで、私の世界を壊したんだと思っていた。
 でもそうじゃない。
 フウカは、破壊神なんかじゃない。

「私を孤独な世界から、救ってくれたんだ……」

 救世主なんだろうね。
 今更、そう思う。

7/7/2024, 12:27:48 PM

《七夕》

 愚かな女。
 愚かな男。
 恋に溺れた、愚かな結末。
 慈悲を零されたが故に、尚更その愚かさは強調されているのだろうか。
 慈悲が故に、その苦しみはより一層募るばかりか。

 ロマンティックに捉える誰かも。
 嘲笑う誰かも。

 今宵一つの、出遭いとなるか。

 ディスティニーか、フェイトか。

7/3/2024, 5:14:21 PM

《この道の先に》

 迷ってばかりで。
 答えなんて分からなくて。
 それでも。
 僕は信じている。
 大丈夫だと、言ってくれた人がいて。
 なんとかなると、励ましてくれた人がいて。
 頑張ってみようと思わせてくれた人がいて。
 僕は、大切な言葉を知った。
 僕は、大切な想いを貰った。
 だから。
 せめて、格好付けられるくらいには。
 頑張ってみたいんだ。
 がむしゃらに頑張ったことはあるか。
 他の何をも犠牲にしたことはあるか。
 時間を捧げるだけ、捧げたことはあるか。
 そう自分に問うたときに答えはでた。
 否。
 一度もない。
 ならば、やってみようと思えた。
 音が、声が、文字が。
 物語が、文章が、表情が。
 今の僕に与えてくれたものは沢山あるのだから。
 わからなくなっても。
 失わないで居られた理由があるのだから。
 この先の道から見える景色は、きっと。
 僕にとって最高の景色なんだろう。
 そう成るように。
 そう在るように。
 僕は僕を信じて、進みたい。
 病んでもいい。
 挫けてもいい。
 傷ついたって。
 なんでもいい。
 それが、僕の選んだ道だと。
 そう、胸を張って言えるようになれれば。

 正しさなんて要らない。
 僕が認められる僕で在ればいい。

 この道の先に、僕は。
 全力で生き続ける自身の姿を、望みたい。


 ……そう思いながら、涙が出るのはどうしてだろ。

6/29/2024, 10:05:51 AM

《夏》

 夏祭り。
 アイス。
 風鈴。
 スイカ割り。
 花火。
 海。
 蚊取り線香。
 かき氷。
 暑さ。
 扇風機。

 その全てに、君がいた。
 譬えばハンバーグの付け合せの野菜の様に。
 当然にして、馴染んで、そこに君はいた。
 だけど。
 そこだけ。
 たった100日の世界にだけだ。
 毎日シャッターを切っても、100枚で尽きてしまう。
 それっぽっちの時間に、景色に、君はいた。

「林檎飴って最後に買うものじゃないの、普通」

 やっぱり硬いって、笑って。

「流石に直ぐ溶けちゃうね、美味しいけど」

 早くないって、笑って。

「チリーンってこの音、涼やかで好きなんだよね」

 わかるいいよねって、笑って。

「もうちょっと前かな、いや、後ろ……?」

 下手じゃんって、笑って。

「この音って笛の音らしいよ、花火師さんの」

 風情がないなあって、笑って。

「うわ、しょっぱい! 水、掛けないでよ」

 仕返しだって、笑って。

「この線香の香り、なんだかんだ好きだよね」

 落ち着くよねって、笑って。

「冷たっ! え、こんな味だったっけ、美味っ」

 もう無いじゃんって、笑って。

「いや、外歩くだけで疲れるよ。家に篭ってたい」

 疲れるよねって、笑って。

「ああぁ〜……ってする人いるけど、君もかよ」

 嗚呼一緒だねって、笑って。

 それで良かったのに。

 君のいる景色が、日々が。
 その世界だけが。
 夏だった。
 想い出になった世界が。
 夏の、全てだった。

 だけど。

「いい? 夏は、楽しむ季節だからね!」

 向日葵が咲いたみたいな君の表情が。

「私がいない夏だって、楽しんでよ」

 淋しそうに、惜しんで見えた君の表情が。

「約束! 絶対絶対の約束!」

 それでも励まそうとしてくれる君の声が。

「夏は、私だけじゃないから。みんなと楽しんで!」

 君との日々を、夏の総てにした。

 全てじゃなくなったことを、君は笑って。
 赦してくれるだろうか。
 ……褒めてくれるんだろうな。

 完全に君とのものだった季節。
 少し他のモノとの季節になって。
 それでも、存在し続ける季節が。

 ——夏。

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