泣いていいよ
そう自分に問いかけたのはいつぶりだろう。
感情が決まりきらないうちに泣くのは、あまり良くないことだと思っている自分がいることに気付いた。
汗のように瞳から吹き出してくる涙がダラダラと耳の奥まで入り込んでくる。
プールの後のあの妙な感覚になってきた。
10分かそこらで着替えて髪も長かったのによく乾かしたよな、と学生だった頃の自分に感心した。
こんなとりとめもないことを書く自分の時間がとても大切で、アイデンティティを喪失させないための重要な事柄だということに七夕も終わる夜明けに気付いた。
夜、短冊に書くならどんな願い事をしようか
なんとなく考えていた。
他力本願で頼みたいことが何ひとつ出てこなかった。
誰かを信用してないんだなと、それも悲しくなった原因かもしれない。
リアルでサバイブな、自力でやることばかり。
ドラえもんがほしいとか、そういう思想が死んでもでてこなかった。
オトナになっちまってる。
こどもが短冊に書くような
そういうやさしいかわいい健気な願い事がほしいなと
そういう願い事を心のなかで祈った。
子供の頃は、何か悪いことをしたら
ごめんなさい。
もうしません。
こんな言葉を幾度となく親から言うように求められたものだった。絶対に思っていなくとも。
大人になった今、謝りなさいと言われる場面は
余程の大失態がない限り無いだろう。
ふと、今までの元カレが頭に浮かんだ。
夜明けの夢で、かつて付き合っていた健吾が出てきたからかもしれない。健吾は会えばいつも笑っていて、暑苦しいほどに愛してくれていた気がする。私の気持ちと釣り合いが取れなくてアンバランスな関係に嫌気が差してお別れしたのだった。
その後、不埒な康史という男に出会って、追いかける喜びを知った。健吾が私を追いかけたように、私は康史を追いかけた。康史に対して色んな感情を見つけ出す度に、私はどこかで健吾に共鳴していたような気がする。
康史の度重なる浮気によって、結局別れてしまった。
どちらも半年と持たなかった。
康史に対しては、こちらも半分期待しないで付き合った訳でこうなることはどこかで予感していた。
あの日から半年経った。
1人でカフェに行って、
デートで訪れているカップルに対しても
なんの感情も抱かなくなった。
ただ、あの時こうしたらよかったな
ということだけがジワリと心に染み入ってくる。
自分が悪いわけではない。
だけど
ごめんなさい
自然に出てくる言葉はこれしかなかった。
次に出会う人には
こんな謝り方、したくない。
愛があれば何でもできる?
んなわけない。
愛にはそれを保持する原動力が必要だ。
そしてそれは理屈で説明できるものではない。
反射的に感じるものだ。
全うに生きていればそれを体感する日が
少なくとも数回は訪れるだろう。
原動力が
義理や意地によるものだとしたら
ただの痩せ我慢。
何かをしたとき
振り返ってみたら
存在していたのが愛なんだ。
愛のためだから出来るはずと
理由付けしてこじつけて
苦しむことは勧めない。
できる、んじゃなくて
愛であるなら
やりたい、だから。
今感じる静寂がとても好き。
夜中の2時過ぎに寝たって
きっと後悔しないから。
このお話のつづきを待っている方へすみません。
仕事が忙しく、文章に向き合えない日々が続いております。
このお話の続きはまた改めて書く予定とさせてください。
ぼちぼちここ数ヶ月は、1回きりでエッセイをかける日に書きたいと思います。
第1話(全4話ほどを予定しております)
朝、起き抜けに何気なく冷蔵庫を開けると
昨日買ってきたはずのプリンが1つだけ無くなっていた。
そのプリンはスーパーでよく見かける4個入りで200円くらいの安くてシンプルなもので、底にはカラメルが入っているごく普通な味わいのものだ。1個入りの高級で濃厚なものよりも、こういうのがたまに食べたくなるのだ。
「まあ、あと3個あるからいいけど」
誰に喋るでもなく真亜子は呟いた。
自室に戻り、スーツに着替え支度を終えて食卓に向かうといつもの朝が始まる。
お父さんは何にも言わずに出てきて新聞を読み、
お母さんはおばあちゃんの世話をしながらも急ぎ足でお味噌汁をすすっている。一人早食い競争みたいだ。
おばあちゃんの世話を手伝おうとすると
あんたはいいから、支度しなさいと言って
手伝わせてもらえなかった。
第一、おばあちゃん自身も私から何かされるのはなんとなく好きではなさそうだった。
この日は会社に新入社員が入ってくる日で
真亜子も先輩社員としてスピーチ予定が組まれていた。
…家では、こんななのになあ
と真亜子は思った。
東京が実家というだけで人生イージーモードらしい。
確かに、と思うことも実際ある。
だけど、取り立ててこれといった幸福感もないし
耳をすませばすぐに聞こえてきそうな不協和音だって感じられる。おじいさんが生きていた頃は、この家は優しかったなぁと味噌汁を飲みながら昔のことを思い出した。
「ほら、あんた今日入社式じゃないの?!」
お母さんの大きい声はいつになく耳をつんざいた。
無くなったプリンのことはいつのまにか忘れていた。
…今日はほとんど座りっぱなしだし、
なんか舐められたくないから
いつもより少しヒールが高いパンプスにしよっ
靴箱の奥に手を伸ばし、3ヶ月に一度履くか履かないかのツヤツヤのパンプスを真亜子は手にとった。これは非常に高かったので、大事にしている。
働くと、こんな小さなちっぽけな優越感が増えていくんだなと思った。真亜子はパンプスを磨くのに一生懸命になって、今日話すスピーチの嘘っぱちな内容をあまり考えないようにしていた。
つづく