このお話のつづきを待っている方へすみません。
仕事が忙しく、文章に向き合えない日々が続いております。
このお話の続きはまた改めて書く予定とさせてください。
ぼちぼちここ数ヶ月は、1回きりでエッセイをかける日に書きたいと思います。
第1話(全4話ほどを予定しております)
朝、起き抜けに何気なく冷蔵庫を開けると
昨日買ってきたはずのプリンが1つだけ無くなっていた。
そのプリンはスーパーでよく見かける4個入りで200円くらいの安くてシンプルなもので、底にはカラメルが入っているごく普通な味わいのものだ。1個入りの高級で濃厚なものよりも、こういうのがたまに食べたくなるのだ。
「まあ、あと3個あるからいいけど」
誰に喋るでもなく真亜子は呟いた。
自室に戻り、スーツに着替え支度を終えて食卓に向かうといつもの朝が始まる。
お父さんは何にも言わずに出てきて新聞を読み、
お母さんはおばあちゃんの世話をしながらも急ぎ足でお味噌汁をすすっている。一人早食い競争みたいだ。
おばあちゃんの世話を手伝おうとすると
あんたはいいから、支度しなさいと言って
手伝わせてもらえなかった。
第一、おばあちゃん自身も私から何かされるのはなんとなく好きではなさそうだった。
この日は会社に新入社員が入ってくる日で
真亜子も先輩社員としてスピーチ予定が組まれていた。
…家では、こんななのになあ
と真亜子は思った。
東京が実家というだけで人生イージーモードらしい。
確かに、と思うことも実際ある。
だけど、取り立ててこれといった幸福感もないし
耳をすませばすぐに聞こえてきそうな不協和音だって感じられる。おじいさんが生きていた頃は、この家は優しかったなぁと味噌汁を飲みながら昔のことを思い出した。
「ほら、あんた今日入社式じゃないの?!」
お母さんの大きい声はいつになく耳をつんざいた。
無くなったプリンのことはいつのまにか忘れていた。
…今日はほとんど座りっぱなしだし、
なんか舐められたくないから
いつもより少しヒールが高いパンプスにしよっ
靴箱の奥に手を伸ばし、3ヶ月に一度履くか履かないかのツヤツヤのパンプスを真亜子は手にとった。これは非常に高かったので、大事にしている。
働くと、こんな小さなちっぽけな優越感が増えていくんだなと思った。真亜子はパンプスを磨くのに一生懸命になって、今日話すスピーチの嘘っぱちな内容をあまり考えないようにしていた。
つづく
深夜24時のファミレス。
「だって、どっちかは諦めなきゃいけないわけでしょ」
冷めたフライドポテトにマヨネーズをつけて平らげると それから結芽は大きくため息をついた。
「…でもそれって、結局どっちかは大切じゃなくなるんじゃない? いずれ。」
楓は結芽にポツリと言い放つと、窓から見える通過していくトラックをぼうっと眺めていた。
「まあ明日にはもう出さなきゃいけない訳よ。
なんでこんなに急に人生の選択肢って選ばなきゃいけないんだろ!」
「自分で願書出したんじゃないの(笑)」
「そうだけどー、いきなり海外勤務なんて聞いてないし」
結芽は就職活動でホテルマンを目指していた。
運良く第一志望に受かったものの、東京本社ではなく
いきなりロンドン支店への入社が打診されたのだった。
結芽自身にとっては栄誉なことだったが、付き合っている同期の佑亮はすでに東京で転勤なしのメーカー勤務が内定していた。ちなみに楓は親の小さな会社を継ぐことになっている。
「こわいな、遠距離なんてしたことないし」
「まあ…私も会えなくなるのは寂しくなるよ」
「だったら止めてよー!」
いつもなら深夜ノリで騒げば、楓も乗ってくれるのだが今日は全然乗ってこない。つまらなくもあり、でもそれが嬉しくも感じた。
「応援してるよ、
何処にいたって結芽と私は変わらないから」
そっくりそのまま
同じ言葉を佑亮にも期待している結芽がいた。
目の前でとびきり嬉しい言葉をかけてくれた楓に対して申し訳なく感じた。
エイプリルフールに
嘘をつかないことにしている。
理由は、
嘘を考える時間に理由を見出せなくなること
嘘をつくことで得られる幸せが見つけられないこと
どんな嘘でも本当でないなら誰かを悲しませてしまうリスクがあること等だ。
しかしながらエイプリルフールというのは
私達にとって存在意義があると感じている。
何故ならこの日だけは大なり小なり
「嘘」を意識して一日を過ごすことになるからだ。
日頃嘘をついている人は、その愚かさに気づいて姿勢を正したり、はたまたもっと大きな嘘を思いつくかもしれない。また日頃から誰かに騙されているような人は、この日に次々と訪れる見える嘘や見えない嘘に怯えて暮らすかもしれない。
そういう私も、この日は嘘はつかないと言っておきながら
日頃は無意識に話を盛ってしまったり、相手が傷つかないように方便として意図的に婉曲に表現したりする、そういうきらいがあると自覚した一日だった。正確に言えば、私はエイプリルフールにしか嘘をつかないのかもしれない。
そう考えるとぼんやりとした真っ赤な嘘が、急に後ろに突っ立っているような気がして怖くなったのだ。
あなたにとって
今年のエイプリルフールはどんな日でしたか?
日本の幸福度ランキングは現在51位。
幸せになることは
どんどん日本人にとって難しくなっているらしい。
インスタグラムを開いてみる。
豚の貯金箱の画像があったとする。
令和6年において
そこには様々な情報が加えられる。
例えば、
#この貯金箱は有名なデザイナーがたった数個しか作らなかった一品で、
#さらに塗料も希少性の高い鉱石を使って作られたもので
#普段は売るということは決して無いものの
#個展に本人がいた場合に話しかけて上手く行けば気まぐれでプレゼントしてくれるという
#幻の…etc
どれだけオンボロに見えても
付け加えられた情報こそに価値が見出され
その貯金箱を持っている人がもてはやされていく。
高級か、稀か
どんな異質さがあるのか
人々は嗅覚を研ぎ澄まし囃し立てる。
どんな人が貰えたのだろう?
どうやって貰えたの?
なにか良くないことでもしたのか?
どうせ彼と繋がりがあるんでしょう?
ずるい!
金持ち自慢?
羨ましいわ。
こういった感情が幸せを呼ぶわけはない。
SNSの普及により、
見栄を張ったり充実した暮らしをUPするために
様々なものを犠牲にする人も少なくない。
何にも知らない人々の
本来見なくてもいいものを
見過ぎているような気がする。
幸せになるには
他人ではなく自分や目の前に居る人を見ること。
そうは言ってもなかなかね、と思いながらも
一つだけ行動してみる。
今日は寝る前にインスタ見るのはやめてみよう、
とかね。
卒業式が終わった。
担任の結びの挨拶もあと少しで終わる。
授業中に目で追ってしまうことも
妄想に胸を膨らませることも
きっともうない。
同じクラスだったのに
言葉をまともに交わせたのは
確か文化祭の前準備の時だけ。
「ありがとな!」って彼の言葉は
ただのクラスメイトに対して発した
フラットでなんの特別もない感謝だった。
何にも知らない
屈託のない笑顔を向けられた時
傷つけちゃいけないって思った。
私の好きな人は
私の好きな人のまま
終わることができる。
彼は友人と楽しそうに話しながら
私の横を通り過ぎて階段を降りていった。
何気ないふりをして近づくことは出来なかった。
本当の偶然をただ祈るように待っていた。
待っている時間で満足できた。
咲かず散らずで綺麗なまま
そっと胸の奥に仕舞われる
私の初恋。