一森くま

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深夜24時のファミレス。

「だって、どっちかは諦めなきゃいけないわけでしょ」

冷めたフライドポテトにマヨネーズをつけて平らげると それから結芽は大きくため息をついた。

「…でもそれって、結局どっちかは大切じゃなくなるんじゃない? いずれ。」

楓は結芽にポツリと言い放つと、窓から見える通過していくトラックをぼうっと眺めていた。

「まあ明日にはもう出さなきゃいけない訳よ。
なんでこんなに急に人生の選択肢って選ばなきゃいけないんだろ!」

「自分で願書出したんじゃないの(笑)」

「そうだけどー、いきなり海外勤務なんて聞いてないし」


結芽は就職活動でホテルマンを目指していた。
運良く第一志望に受かったものの、東京本社ではなく
いきなりロンドン支店への入社が打診されたのだった。
結芽自身にとっては栄誉なことだったが、付き合っている同期の佑亮はすでに東京で転勤なしのメーカー勤務が内定していた。ちなみに楓は親の小さな会社を継ぐことになっている。

「こわいな、遠距離なんてしたことないし」

「まあ…私も会えなくなるのは寂しくなるよ」

「だったら止めてよー!」
 
いつもなら深夜ノリで騒げば、楓も乗ってくれるのだが今日は全然乗ってこない。つまらなくもあり、でもそれが嬉しくも感じた。 

「応援してるよ、
何処にいたって結芽と私は変わらないから」

そっくりそのまま
同じ言葉を佑亮にも期待している結芽がいた。
目の前でとびきり嬉しい言葉をかけてくれた楓に対して申し訳なく感じた。

4/3/2024, 9:54:45 AM