『カラフル』
上から見る、カラフルな傘が好きだった。
花が咲いてるみたいで。アスファルトと言う夜空の上に、花火が咲いてるみたいで。大好きだった。雨が降っている。それでも気分が上がった。
ピンク色の小さな傘の下。
双子の様に並ぶ黄色の傘の下。
猫があしらわれた傘の下。
黒色の広い傘の下。
そこにはどんな子が居るんだろう。
何が好きなんだろう。
どんな毎日を送ってるのかな。
そうやって考えるのも好きだった。
私もあの花畑の一員になりたかった。でもね、
幽霊となった今では叶わないの。
『楽園』
あの柵の向こうがそれだ。
あの手摺の向こうがそれだ。
あの輪の向こうがそれだ。
それは警告音の鳴る線路。
それは遠目に見えるアスファルト。
それはぶら下がる縄。
楽園は、そこにあるのだと思う時がある。
少し越えてしまった向こう側。
うっかり足を滑らせてしまった向こう側。
望んでしまった向こう側。
そう思ってしまう時がある。
楽園は、なんだろうか。
例えば、自由なのだろうか。
例えば、癒しなのだろうか。
楽園は、どこにあるのだろうか。
形の見えないものだから。
あの空の向こうに、憧れてしまう事がある。
『風に乗って』
風に乗って行く。
風に乗って散って行く。
風に乗って舞い散って行く。
春が終わった。
遅咲きの桜のせいで、今か今かと胸騒ぎの絶えない春が。
白んだ空の下、いっぱいの淡い色彩達に胸が高鳴る春が。
窓辺に可愛らしい花弁が居座って、胸が満たされる春が。
春が終わった。
小夜中、打ち付ける大雨にやめてくれ、と懇願する春が。
晴れた朝、お嬢様気分で桜の絨毯を歩き笑顔になる春が。
あっという間に緑の混じった木に、寂しさを覚える春が。
風に乗って、花が散った。それが春の終わりだった。
風に乗って、爽やかな香りが漂う。それが合図だった。
風に乗って、夏へのバトンが渡された。それが始まり。
始まりは風。
終わりは風。
季節は風。
風に乗って、巡って行く。
風に乗って、季節の欠片が咲き散って行く。
風に乗って、硝子細工の様な美が紡がれて行く。
『すれ違い』
絡んだ糸はほどけてしまった。
美しく結んであげないといけないようね。
絡んだだけでは駄目なようね。
綻ぶ糸屑にふっと息を吹き掛けるのよ。
殿方との記憶の欠片が舞っているわ。
そこの純真無垢な乙女よ。糸を結ぶまで白く居るのよ。
すれ違いざまに振向いてみなさい。時々糸が見える。
ほどけないように固く結んで、美しく飾るのさ。
絡まってしまったらそれで終わりよ。
さぁ、乙女よ。
『秋晴れ』
東雲の薄い空に見えるは、きらり光る金星。
青い空に見えるは、すーっと伸びる飛行機雲。
黄味掛かった空に見えるは、更に黄色い銀杏の葉。
濃紺の空に見えるは、それでも明るい白い眉月。
雲一つ無い青空。
肺を満たす澄んだ空気。
頬を舐む軽い風。
からりと音を立てる紅葉。
秋に恋するあたしだった。