君の名前を初めて呼んだのは、もう覚えていない。
でも、物心がついたときには、もう呼んでいた。
それからずっと。
誰かの前でも、心のなかでも、君の名前を呼んできた。
この世に生まれて、最初に贈られたその名前を、
その名前に込められた思いを、
今までその名前と歩んできた軌跡を、辿るたびに、
君のことを愛おしく思うんだ。
普段はそんなこと、意識しないけど。
匂いはないし、触れない。
でも、形は確かにあるし、音だって聞こえる。
そんな君の名前は、、、
朝焼けを見にいこう、と思って。
早起きして、始発に乗った。
でも目的地に着く前に、日が昇ってきてしまった。
電車の車窓に、ビルの間隙を縫って、光が届いた。
紺碧の空に、光の線が四方八方に広がって。
その一部が、私に差し込んだかのように思えた。
胸を打たれた。日の出は、朝日は、こんなにも美しいのだと。
朝が来なければいい、なんて思うこともある。
だけど、この美しさを知れたなら。
少しは明日に希望が持てる気がする。
選択するってことは、何かを得て、何かを失うこと。
得られたはずのもの、持っていたものを手放すということ。
人生は選択の連続である。
それは、
夜何時に寝て、朝何時に起きるとか、
おやつを食べるか、食べまいかとか、
日常の些細なことから、
進路先をどのように選択するかとか、
何の授業を取るか、
といった大きなことまで。
私は今、こんな時間まで起きてスマホを触っているわけだけれども、
健康を手放しているんだよな。
くるくる
まきまき
あみあみ
きゅっきゅっ
ふわふわ
すぽっすぽっ
もこもこ
ぬぎぬぎ
ぱちぱち
あったか〜い
セーター
ある日、散歩をしていると穴を見つけた。
足の大きさ程の穴だったので、またいで通った。
次の日、また穴があった。
24インチのテレビくらいの大きさだった。
大きくなっている気がしたが、横を通った。
1週間後、その穴は玄関のドア程の大きさになっていた。
横に足場もなかった。
仕方がないので、他の道を通った。
1ヶ月後、様子が気になったので、穴まで向かうことにした。
もはや谷だった。
橋を架けなければ通れないほど、大きく、長く、果てなかった。
どうやら近所でも、話題になっているらしい。
路地なので迂回する道は山程あるが、不便だと。
だんだん大きくなる穴に疑問をもった。
夜に変化しているのではないかと考えた。
その日の夜、穴を見に行くことにした。
それは、ぶくぶくと黒い泡を出しながら、道路に侵食していた。
その音をしばらく聞いていると、人の声のようなものが聞こえた。
しかし何を言っているか分からない。
しゃがんで、泡に耳を近づけた。
ありがとう、と聞き取れた気がした。
と、いうのもいつの間にか、真っ逆さまに落ちていたからだ。
それは退屈な授業のようにも、一瞬にも感じられた。
底は、クッションが敷き詰められてるようだ。
さすがに頭から着地すれば、助からないと思うが。
ここまでで、何か分からなかったことある?
大丈夫?そっか。じゃあ、話を続けるね。
あ、そうだ、そうだ。
俺、暗闇に一人で不安だったんだよね。
落ちてきてくれて、ありがとう。