もし、僕の背中に綺麗な羽が生えたら。
僕たちのすべてを捨てて、君を背に乗せ飛んでゆくんだ。
どこか、誰も僕たちのことを知らない遠くの街へ。
これはいつかのある街の、
醜くも幸せだった二人の少年の話。
-遠くの街へ
朝、時々電車の中で思う。
このまま乗っていたら、逃げられるんじゃないかと。
別に死にたい訳では無い。
いじめも受けてないし、成績も運動も普通。
友達も多くはないけどいるし、家族とも円満だ。
ただ、ふと思うのである。
この毎日続く同じようなループから、逃げられたら、と。
そして、逃げるのなら今だ、とも思う。
それは、きっといとも簡単に出来るのだろう。
たった一駅乗り過ごすだけなのだから。
ただ、私にはそれが出来ない。
たったそれだけの勇気も出ないし、不変を壊すのが怖い。
いつも気づいたら足が動いて、いつもの駅で降りて、いつもの道を歩いている。
あぁ、もしこのまま、逃げられたら。
-現実逃避
毎朝17分間。
私は君を思い出す。
自転車で、髪の毛が風に吹かれるのを感じながら。
中学を卒業して別々の高校に行き、どちらかが「会いたい」と言わないと会えない関係になってしまった。
連絡するきっかけも掴めないまま、はや半年。
なにしてるかなんて、今更意気地無しには連絡できない。
私にもっと、勇気があれば良かった。
毎朝17分間。
俺は君を思い出す。
電車の窓際で、流れる景色を横目に心地よく揺られながら。
同じ学校だった中学と違って、会おうと思わないと会えなくなってしまった。
半年近く連絡していないことに焦ってはいるものの、勇気が出なくて話しかけれていない。
中学の時、もっと仲良くなっとけば良かった。
『君は今、なにを見ていますか。』
-君は今
5時32分。
寝静まった家の中、家族で一番の早起き。
5時47分。
炊いてある白ご飯と、鮭フレークと海苔。
6時38分。
家を出て、駅まで歩く。
6時45分。
いつもの電車、7号車2番ドア。
6時50分。
窓際の場所が空き、特等席に立つ。
いつもと同じ光景、物憂げな空。
7時03分。
君が、乗ってくる。
君と同じ空間にいる14分間だけが、
一日の中で、僕の世界に色のある時間だ。
-物憂げな空
眠れないから、夜中の道を歩いた。
行く宛てもないから、いつもの丘に登った。
胸が痛いから、寝転んで星を眺めた。
そうして、目に映る全てのものを星空にした。
それから、目を閉じて星空のずっと向こうを想った。
風が、凪いでいた。
-小さな命