hinoco

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10/17/2023, 1:02:48 PM

◤忘れたくても忘れられない◢

『――またな』
そう言っていた声が頭から離れない。
別れる時の、嬉しそうな笑顔も。
あれから八年経った今でも、その約束は果たされていない。
今頃なにをしているだろう。好きな人の隣で、今も笑っているだろうか。
伝えることすらしなかった恋をいつまでも引きずっているなんてバカみたいだけれど、それでもあいつのことが、忘れたくても忘れられない。

10/16/2023, 12:22:16 PM

◤やわらかな光◢

窓辺で机に突っ伏す君に、やわらかな光が差し込む。
穏やかな微笑みが相まって、まるで絵画のようだ。
そんなことを言ったら笑われるだろうけど。
いったいどんな――……誰の、夢を見ているのか。
表情だけでそれがわかる気がして、少しだけ寂しくなった。

10/15/2023, 2:03:27 PM

◤鋭い眼差し◢

クールでかっこいいと人気の生徒会長がいる。
細いフレームの眼鏡がすごく似合っていて、もちろん頭もいい。
かといって冷たいわけじゃなく、人当たりもいい。教室の評判もよく、誰かと話すときは微笑みを絶やさない。
入学してこのかた何度も告白されては好きな人がいるとふり続け、一途なところも素敵だと密かにファンクラブまでできている。
そんな完璧人間な生徒会長サマは、オレのクラスメイトだ。
とはいえ平々凡々……よりさらに下のオレとはそれ以外特に接点もなく、会話だってほとんどしたことはない。
――はずなんだけれど。
「……なあ、お前また睨まれてるけど」
「知ってる」
やたらと鋭い眼差しがこっちを向いて、目が合った瞬間逸らされる。
オレだけはなぜか、たまにこんなことがある。
「やっぱりお前なんかしちゃったんじゃないの?」
「なにかするほど関わってねぇって」
本当に、心当たりはまったくない。
迷惑をかけている可能性があるとしたらバカでクラスの平均点を下げているくらいだけれど、それだって似たような成績のやつは他にもいる。
今現在騒いでいてうるさいわけでもないし、何度考えても謎のままだ。
「どうしたもんかね」
理由なきそれは、正直あまり気分のいいものではない。
いつか直接聞いてやろうと思う。
……まあ、卒業するくらいまでには。

10/14/2023, 2:04:11 PM

◤高く高く◢

屋上に寝転んで、高い空を見上げる。
鮮やかな水色に、真っ白な雲が浮かぶ空。
今なら雲が掴めそうな気がして手を伸ばす。
「……なにやってんの?こんなところで」
ふいに視界に人の顔が入り込んだ。
一瞬だけその顔を見て、それからただ黙って視線を上に向けると、その人も隣に立ったまま空を見上げた。
すぐ隣で何気なく下ろされた手を掴もうと手を伸ばす。
高く高く、一ミリでも高く。
この距離では届くはずがないと知っているけれど。

10/13/2023, 2:14:38 PM

◤子供のように◢

「だーいすき!」
通りがかった公園で、幼稚園生くらいの女の子が男の子に抱きついた。男の子も嬉しそうに笑って女の子を抱きしめ返す。
「ぼくもだーいすき!」
照れることもなく大きな声で返すその姿が、眩しい。
「おおきくなったらけっこんしようね!」
「うん!やくそくだよ!」
――高校を卒業したら、結婚しよう。
かつてそう言っていた相手を思い出す。
無理だと突っぱねたその言葉を受け入れていたら、今なにか違っていただろうか。
真剣だとわかっていたのに、冗談言うなよと笑って返した。勇気の出なかったその日のことを、何度も何度も思い出す。
あの子供たちのように、自分の気持ちを素直に伝えられていたら。
ちゃんと向き合うことができていたら。
今も隣を歩いていただろうか。
細く長く、静かに息を吐き出す。
卒業してからはもう会っていない。今は何をしているだろう。
――ふいに、ポケットの中の携帯が震えた。

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