今日も淡い潮風が吹いている
それを感じて
アナタはもういないのに
世界はちゃんと動いているんだなぁって思う
海面は穏やかだけど
自分の心は穏やかじゃない
だって、隣にいたはずのアナタがいないから
アナタの好きな青い青い海をみる
知らぬ間に涙が溢れ、嗚咽が漏れる
砂浜に膝をつきながら
“何で、アナタは自分を庇ったんだ”
そう、海へ向かって、祈るように懺悔するように呟く
答えはもちろんない、
だってアナタはもう消えてしまったから、
それでも、やっぱり、そう聞いてしまう
アナタの好きな海に向かって
海へ、自分はそう問いかける
海へ
桜の木の下で寝っ転がっていると
「ねぇ、ウチのこと好き?」
唐突にオレの顔を覗き込み
そう聞いてきたお前に
少し起き上がって、そっと優しいキスを贈る。
すると、お前は少しムスッとして
「ねぇ聞いとるんやけど、首振るかなんかはしてよ」
それに対してオレはこう思った
『仕方ないだろ?
オレは口がきけないし
それに…素直じゃあない』
だから
こうした捻くれた裏返しの愛情しか表現できない。
お前はそんなオレでも好いてくれるか?
桜の木の下に、恋人が寝転がっていたから
なんとなく、
『ねぇ、ウチのこと好き?』
と聞いてみたら、口がきけない彼は、
一瞬驚いた顔をすると少し起き上がって、
その言葉の代わりにキスを優しく贈ってきた。
それが凄く嬉しかったんやけど、
何となく意地悪したかったから
『ねぇ聞いてるんやけど、首振るかなんかはしてよ』
そう言うと、彼は顔を顰め、何か言いたげな雰囲気を出す
それをみて、微笑みながら、ウチは彼の横に寝転がる。
きっと「オレは口がきけないし、それに…素直じゃあない」
とでも思ってるんやろう。
別に、大丈夫やで?
あんなことを言うたけど、アンタが喋れなくても
ウチは、アンタが言いたいことはわかるよ
アンタのその少し捻くれた裏返しの愛情が理解できるよ?
ウチはアンタのこと大好きやで?
だから心配しないでね?
ある晴れた日の午後
満開の桜の木の下に
口のきけない少年と
天真爛漫な少女が片手を絡ませながら昼寝をしていた。
2人は雰囲気からおそらく恋人同士で
とても仲睦まじい様子で、スウスウと眠っていた。
きっと、2人共、同じ夢をみてるんだろうなぁ
今は放課後
場所は数人のクラスメートが残った教室
ふと、アタシは目の前で本を読む彼を、
幼馴染でずっと片想いをしてる彼の顔を見つめる。
幼い頃から見てきた、その中性的な美しい顔を
いつ見ても、寂しげな、でも優しいその微笑みを見つめた。
アタシはたまに思う。
彼ははもしかしたら、鳥か天使なのかもと、
だってそう思うぐらい、綺麗な顔をしてるし
性格も、たぶんクラスの男子の中じゃ1番優しい
でも、そう言うたびに、彼ははいっつも……
「酷いなぁ、ボクは人間だよ?」
すると、ちょうど、頭の中で思っていたことを
まさかのご本人が本から顔を上げずにそう言った。
比喩だと彼も(たぶん)分かっているくせに、
いつも生真面目にこう言うのだ。
「カンだけど、絶対そう思ってるだろ?」
「…恐るべし、アンタの、その妙に鋭いカン」
個人的には授業中にこそ、その生真面目さを出してほしい
心の中でぼんやりとそう思っていながら、笑うと
彼はいつもは、仕方ないと言って、笑うのに
今日は真面目な顔で本から目を離しこっちを見て、こう言った
「あのね、キミはボクの事、たまに鳥とか天使って言うけど
ボクにとっちゃあ、キミのほうが鳥だよ?
だって、キミはボクの可愛いくてカッコいい小鳥さんだよ?」
その言葉にアタシは驚き、
次の瞬間、頬が真っ赤になるのを感じる
一方の彼は涼しげな様子で本に目を落とし、顔を逸らす
だから、アタシは知らなかったし、気づかなかった。
彼も知れせる気はなかった。
彼は、アタシと同じぐらい顔を真っ赤にしながら、
ぼそっと誰にも聞こえない声で
告白に近い言葉を言ったことを
「…だから、たとえ、キミが鳥のように何処かに羽ばたいても
ボクが必ず捕まえに行くから、覚悟してね、ハニー?」
その日は、よく晴れていた日だった。
君は畳の上に敷いた布団の上に横たわり、
障子越しにそれを見ていた。
「…今日もよく晴れてるね」
枯れ木のように痩せてしまった腕をゆっくりと持ち上げ、
そう優しく微笑みながら、掠れた声で言う君
「…あぁ…」
その声を聞いて、僕は答えながら、一粒、涙を流す
出会って、恋に落ちたときからも、
好きと言って、恋人になってからもずっと分かっていた。
僕は妖で、君はただの人。
だから、同じ時間は生きれないし
生きれたとしても、それは限りある時間。
それでも、きっとは僕は
しわくちゃの君を看取るんだなぁってずっと思っていた。
なのに、君はしわくちゃになる年どころか
まだ二十歳にもなってないのに、
恋人になって、三年と経ってないのに、
君は、
不治の病にかかって、
たぶん、今日、死ぬ。
それが悲しくて、
自分は人じゃなくて、強い力をもった妖なのに
君のたった一人の恋人なのに
彼女を結局助けられなくて
不甲斐なくて、悔しくてたまらなくて、
其れで、歯を食いしばって泣いてたら、
君は、空から目を離し、僕のほうをゆっくり見た。
出会った幼い頃と変わらない蒼色の瞳
今日の空と一緒の色をした瞳
優しさを滲ませた瞳を向けながら
君は掠れた、でもとても優しい声で言う
「…泣かないで、…私はちょっと先に逝くだけだよ?…
まぁ…こんなに早く逝くとは思わなかったけど…
でも、まぁアンタが隣にいるなら、どんな最期でも素敵だよ…」
そう一息に言い、淡く微笑むと
疲れたように深く息を吸い、言葉をゆっくりと続ける
「ねぇ、私ね、貴方の事、…
……ちゃん好きだったよ……
ずっと、ずっと、愛してるよ」
その優しい瞳を見て、僕は
君に向かって、思わず言いたかった言葉を言う
ずっと、ずっと言えなかった言葉
『好き』という二文字は言えたのに、
この言葉だけは照れくさくて言えなくて、
君はよく言ってくれたけど、僕は中々言えなかった言葉
言いたかったけど、結局言わないと決めてた言葉
それを、今、死にゆく君に贈る
僕は息を吸い、
涙でぐちゃぐちゃの顔を頑張って微笑ませる。
君が好きだと言ってくれた笑顔で君を見て、
小さな、でもはっきりした涙声で
最愛の君に言う。
「…僕、も君を、ずっと、愛してるよ…」
君は驚いたような顔で僕を見つめ
とても嬉しそうに、泣きそうに破顔した
そして、息をとても深く吸い、ゆっくりと目を瞑った。
さよならを言う前に、君に言う言葉