その日は、よく晴れていた日だった。
君は畳の上に敷いた布団の上に横たわり、
障子越しにそれを見ていた。
「…今日もよく晴れてるね」
枯れ木のように痩せてしまった腕をゆっくりと持ち上げ、
そう優しく微笑みながら、掠れた声で言う君
「…あぁ…」
その声を聞いて、僕は答えながら、一粒、涙を流す
出会って、恋に落ちたときからも、
好きと言って、恋人になってからもずっと分かっていた。
僕は妖で、君はただの人。
だから、同じ時間は生きれないし
生きれたとしても、それは限りある時間。
それでも、きっとは僕は
しわくちゃの君を看取るんだなぁってずっと思っていた。
なのに、君はしわくちゃになる年どころか
まだ二十歳にもなってないのに、
恋人になって、三年と経ってないのに、
君は、
不治の病にかかって、
たぶん、今日、死ぬ。
それが悲しくて、
自分は人じゃなくて、強い力をもった妖なのに
君のたった一人の恋人なのに
彼女を結局助けられなくて
不甲斐なくて、悔しくてたまらなくて、
其れで、歯を食いしばって泣いてたら、
君は、空から目を離し、僕のほうをゆっくり見た。
出会った幼い頃と変わらない蒼色の瞳
今日の空と一緒の色をした瞳
優しさを滲ませた瞳を向けながら
君は掠れた、でもとても優しい声で言う
「…泣かないで、…私はちょっと先に逝くだけだよ?…
まぁ…こんなに早く逝くとは思わなかったけど…
でも、まぁアンタが隣にいるなら、どんな最期でも素敵だよ…」
そう一息に言い、淡く微笑むと
疲れたように深く息を吸い、言葉をゆっくりと続ける
「ねぇ、私ね、貴方の事、…
……ちゃん好きだったよ……
ずっと、ずっと、愛してるよ」
その優しい瞳を見て、僕は
君に向かって、思わず言いたかった言葉を言う
ずっと、ずっと言えなかった言葉
『好き』という二文字は言えたのに、
この言葉だけは照れくさくて言えなくて、
君はよく言ってくれたけど、僕は中々言えなかった言葉
言いたかったけど、結局言わないと決めてた言葉
それを、今、死にゆく君に贈る
僕は息を吸い、
涙でぐちゃぐちゃの顔を頑張って微笑ませる。
君が好きだと言ってくれた笑顔で君を見て、
小さな、でもはっきりした涙声で
最愛の君に言う。
「…僕、も君を、ずっと、愛してるよ…」
君は驚いたような顔で僕を見つめ
とても嬉しそうに、泣きそうに破顔した
そして、息をとても深く吸い、ゆっくりと目を瞑った。
さよならを言う前に、君に言う言葉
8/21/2024, 8:31:19 AM