詠み人知らず

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4/17/2024, 11:11:40 AM

朝、綺麗だな、帰りはゆっくり歩いて帰ろうか、と素早くまぶたの裏に納めて通りすぎた桜並木は、夕方、すっかり花びらを落としてしまっていた。こんなことなら、遅刻覚悟でじっくり眺めておけばよかった。雨さえ降らなかったらな。春のいちばん美しい瞬間は、いつだって瞬きするよりもはやく過ぎ去ってしまう。天使がこぼした羽根みたいな、柔らかな桜のじゅうたんを踏みつけながら歩く度、弱くじくん、と心臓が跳ねた。

4/14/2024, 11:37:49 AM

いいかい。恋は恋と認めるまでは恋ではないのだよ。
無理に気持ちに名前をつけなくたっていいじゃないか。
なにものでもないその気持ちの中間地点でふわふわ浮いてるのも悪かないだろう?

4/7/2024, 10:41:46 AM

メロスは沈む夕日の十倍も速く走ったのだっけ。走れメロスは陽キャ太宰の最高到達点だと思う。陰キャ太宰の最高到達点は人間失格かなあ。

4/6/2024, 10:41:36 AM

小さかったころ、鏡の前に立って懐中電灯で自分の目を照らしてみたことがある。
きゅーっとすぼまる瞳孔、虹彩のぎざぎざした花のような模様、古くなった蜂蜜みたいな色。こんなにきれいなものが、自分の顔にふたつ、嵌まっているのが変な感じがした。ずっと、日本人の目は黒いものだと思いこんでいたぼくは、そのときはじめて、自分のほんとうの目の色を知った。その表面には、どこか呆然としたようすでこちらを覗き込む、自分そっくりの姿がうつりこんでいた。

4/6/2024, 8:19:55 AM

帰り道、ふと空を仰いだとき、無意識にオリオン座の砂時計みたいなかたちを結んでしまう。北斗七星のひしゃく形も、さえざえとした冬の大三角も結んでしまう。そして、ああ、今日はプレアデス星団がくっきり見える。いい天気だな。と思ったところで、立ち止まって星を見ているのはわたしだけだということに気づく。我に返って、なにしてるんだろうわたし、と歩きだす。冬の星空はこわいくらいに冷たくて強く輝いている。

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