詠み人知らず

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朝、綺麗だな、帰りはゆっくり歩いて帰ろうか、と素早くまぶたの裏に納めて通りすぎた桜並木は、夕方、すっかり花びらを落としてしまっていた。こんなことなら、遅刻覚悟でじっくり眺めておけばよかった。雨さえ降らなかったらな。春のいちばん美しい瞬間は、いつだって瞬きするよりもはやく過ぎ去ってしまう。天使がこぼした羽根みたいな、柔らかな桜のじゅうたんを踏みつけながら歩く度、弱くじくん、と心臓が跳ねた。

4/17/2024, 11:11:40 AM