〘友だちの思い出〙
" Aとの付き合いを語るならそれは中学生の頃までに遡る。偶然に同じ部活で、偶然に余ったもの同士で、よく体調を崩してコミュニケーションを取りづらくなる彼女に私が同情心で付き合ってあげたのが始まりだった。
「Aはさ、高校どこ行くの?」
「O高校かな、あそこの射撃部気になるんだよね。」
何回この中身のない会話を繰り返したろう。当時、私は彼女にさほど興味を持てず、適当に話を流していた。私たちの間には創作という共通の趣味があったけれど、彼女はあまり開けた人とは言えなかったので、何も言わなかった。部活間限りのなんとも言えない他人としての沈黙が私たちを覆っていた。
〘繊細な花〙
「花ってさ、脆いよね。」
綿毛を吹きながら独り言のよう言う。吹き先揃わぬまま、彼らは飛んでいった。
「けどさ、雑草は強いじゃん。抜いても抜いても気がついたらいて、図太いっていうか...だから....」
もう一人が冠を編みながら、考える素振りをしてシロツメを摘んだ。
「つまり、花も雑草も変わんないってこと?」
3人目が食べながら口を挟んだ、手は砂糖でベタベタ。どう作ったらそうなるのだか。
「まぁ、多分。綿毛だって存続の手段だから心臓に毛が生えてるレベル。かといって茎とか供給源絶ったらあとは持ち主次第だから、環境破壊されて終わるって意味で儚いってのも的を射てるよね。」
「「分かる〜。」」
何がウケたのかは理解しがたいが、3人は感情を共有し「そういうとこがかわいいんだけどね〜」と言いながら今度はドライフラワーを作り始めた。
〘誰にも言えない秘密〙
実は神様を信じている、なんて人に知れたら精神科にでも連れて行かれる。だから内に飼っているかみさまを秘した。幸い道具は何もいらないのでバレることはない。自分はそれを"透明性"と呼んで沐浴のたびに祈った。腕を胸前に手を組んで何も希わず、敬虔な信徒のように形だけをとれ、さすれば汝は救われる、と。
〘狭い部屋〙
むかしから姉弟がいたので自分のスペースはあまり作って貰えなかった。6畳の部屋を両親が、残り10畳しかない部屋を4等分。すると、必然的に空間は共有され、プライバシーのへったくれもない部屋ができたのだ。いくらパーテーションを設置したとはいえ誤魔化しきれない喧騒。自分はいつもその中に蹲ってなりを潜め、世界から光と音が消えるのを待っていた。
大学生になり、上京しようやく一人の空間を持つようになった。家賃との兼ね合いもあるので実家の部屋一つ分よりは広いとは言えないけど念願の自分のためだけの場所。幸せなはずだった。誰にも煩わされない時間と空間。やりたいこと好きなようにできる。そのはずなのに自分の心はどうにも空虚だった。
君と暮らすようになった。アパートは以前のままで君の空間ができた。最初はどうでもよかったはずなのに気が付いたら踏み込んでいて、踏み込まれてて最後には笑ってた。やはりというか自分だけの空間は自立前よりも狭くなった。けれどそれで良くて、君となら侵されるのも悪くないって思ってしまう。笑うのはもちろん泣くのだって怒るのだって聞かせてほくらいなんだ。
これって惚気だろうか?
〘降り止まない雨〙
「最悪だ」
俄に変わった天気模様に溜息をつき、これぐらいならいけるか?と少し手を出してみる。空から降る線は細かく今にも自分をみじん切りにしてしまいそうだった。
「しょうがない、戻るか。」
足先を変え、どこかへと向かっていく。部活や委員会、何にも属していない自分には行く宛がない。だから屋上へと行くことにした、といってもその手前だが。いつもこんなに人が避けているわけではないのだ。ただ、今日はひどくメランコリックで、それが嫌で知られたくないけど、ずっとこうだったらと思うので。
階段に腰かけ、目を閉じる。
こんな日があってもいいと望んでしまうのだ。