〘繊細な花〙
「花ってさ、脆いよね。」
綿毛を吹きながら独り言のよう言う。吹き先揃わぬまま、彼らは飛んでいった。
「けどさ、雑草は強いじゃん。抜いても抜いても気がついたらいて、図太いっていうか...だから....」
もう一人が冠を編みながら、考える素振りをしてシロツメを摘んだ。
「つまり、花も雑草も変わんないってこと?」
3人目が食べながら口を挟んだ、手は砂糖でベタベタ。どう作ったらそうなるのだか。
「まぁ、多分。綿毛だって存続の手段だから心臓に毛が生えてるレベル。かといって茎とか供給源絶ったらあとは持ち主次第だから、環境破壊されて終わるって意味で儚いってのも的を射てるよね。」
「「分かる〜。」」
何がウケたのかは理解しがたいが、3人は感情を共有し「そういうとこがかわいいんだけどね〜」と言いながら今度はドライフラワーを作り始めた。
〘誰にも言えない秘密〙
実は神様を信じている、なんて人に知れたら精神科にでも連れて行かれる。だから内に飼っているかみさまを秘した。幸い道具は何もいらないのでバレることはない。自分はそれを"透明性"と呼んで沐浴のたびに祈った。腕を胸前に手を組んで何も希わず、敬虔な信徒のように形だけをとれ、さすれば汝は救われる、と。
〘狭い部屋〙
むかしから姉弟がいたので自分のスペースはあまり作って貰えなかった。6畳の部屋を両親が、残り10畳しかない部屋を4等分。すると、必然的に空間は共有され、プライバシーのへったくれもない部屋ができたのだ。いくらパーテーションでも音、光を避けても誤魔化しきれない喧騒。自分はその中になりを潜め、いつも分からぬ何かに怯えていた。
その反動か大学に入り一人暮らしをするようになると「俺はここにいるぞ」と主張せんばかりに、独り言とも区別つかぬ言葉を吐いたり、物を乱雑に扱った。元々几帳面なこともあって、翌朝には片付けはするのだが、帰ってくると我慢がきかなくなり、壊してしまう。呪われているようだった。何が原因かも分からない。内側で誰かが泣いている、それだけ、知っている事実だった。
君と暮らすようになった。
アパートは前のままで、君のスペースができた。
最初はどーでもよかったはずなのに気が付いたら踏み込んでいて、踏み込まれてて笑ってた。
それから部屋は自立前よりも狭くなった。侵されることが死ぬほど嫌だったのに君となら、いいって思ってしまっう。泣くのだって怒るのだって聞かせてほしいくらいなんだ。
これって惚気だろうか?
〘降り止まない雨〙
「最悪だ」
俄に変わった天気模様に溜息をつき、これぐらいならいけるか?と少し手を出してみる。空から降る線は細かく今にも自分をみじん切りにしてしまいそうだった。
「しょうがない、戻るか。」
足先を変え、どこかへと向かっていく。部活や委員会、何にも属していない自分には行く宛がない。だから屋上へと行くことにした、といってもその手前だが。いつもこんなに人が避けているわけではないのだ。ただ、今日はひどくメランコリックで、それが嫌で知られたくないけど、ずっとこうだったらと思うので。
階段に腰かけ、目を閉じる。
こんな日があってもいいと望んでしまうのだ。
〘逃れられない〙
終わりがある。ハッピー、バッド、ノーマルどんな形であろうとも完成したらならば忘れ去られる日が、意図せず記憶から抜け落ちることが起こってしまう。成長し続けるからこそ私たちは学ぶために直面し、吸収し、過去とする。そのたびに私は彼らとの別れを惜しみいつまでかと悩み、次の場面では気が付けば資源として消費していた。
嘆いた、けれどそれは過去の私の猿真似に過ぎず、悲しくなどない。どうでも、どーでもいい存在で、私もその一部に過ぎなかった。所詮、大切になど出来ず、壊す。