アルメリア

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2/10/2024, 1:04:20 PM

〘誰もがみんな〙
 「あの子になりたい。」
 小学生の頃、彼女といっしょのクラスになった女の子たちは口々にそんなことを言った。当時、私だけその子を知らなかったので、「あの子ちゃんって、誰?」と聞いたしまったのは苦い思い出ではあるが、とりあえず彼女はみんなの注目の的だったらしい。
 曰く、かつての天才ピアニストの子供で全国コンクールで最優秀賞をとったとか、模試も上位の成績を修めているだとか、ハリウッドの映画監督が彼女を見初めたとか、はたまた武道の心得があり、不審者を撃退しただとか、私たちとは世界線が違うレベルの優等生だった。それだけでも、へぇ~と感心したものだけれど、女子の眼中にあるのは別のことらしかった。当時、クラスにK君という(周りとは格が違う)イケメン優男がいたのだが、彼がその子(仮にNちゃんとしよう)を一頭気に掛けていたらしい。
それが羨ましいのだとか、綺麗でお似合いだけど気に食わないのだとかよくそんなことばかり言い続けられるな、と密かに考えていたのは覚えている。


 数日後、宿題を取りにに教室へ戻ろうとすると、中にNちゃんの姿を見かけた。声をかけようとしたけど、いつもと違う鬼気迫るような表情をに恐怖に感じて、私は思わず後ずさって逃げた。途中の廊下でK君にぶつかってしまった。彼は謝罪の後にNちゃんの場所を聞いてきた。私は疑問に思いながらも答えた。その後のことは知らない。宿題は忘れた。

 次の日からNちゃんはいつも通り、ニコニコした優等生だった。彼女の身体に傷は一つも見当たらない。

 人はみな、誰しも言えないことがあるのだと思った。

2/10/2024, 9:17:05 AM

〘花束〙 
 花束を持って、僕はその墓の前に立っている。それは随分と昔に亡くなった友人のためだった。彼は普段、神経が太すぎるくらいでそれ故に撲や彼女は胃を痛めたものだったが、………こうして居なくなってしまうとそれはそれで寂しいと思ってしまった。一呼吸おくと、僕は"妻"と友人の墓へ花を手向け、それから手を合わせた。

 僕らはいわゆる三角関係というやつだった。僕と彼が彼女を好きで、彼女は僕らの両方が好きで、どうしようもなかった。だから、じゃんけんで分けることに決めた。勝った方が生前に負けた方が死後に彼女を娶る。勝ったのは、僕だった。僕は彼女の生涯を共にした。予想外だったのは彼が若くして逝ってしまったことぐらいだろう。僕らはずっと幸せだった。

 先日、妻が天寿を全うした。老衰だった。
 子や孫らは悲しんでいて、勿論それが一般的なのであるが僕は同時に安心したのだ。彼はあちらで僕らをずっと待っている。だけれど、僕らには死の兆候が見られなかった。僕らだけが幸せのまま。彼に申し訳がたたない気がしていた。けれど、ようやく恩が返せるのだ。喜びで涙が溢れた。彼女は最期に「お祝いしてね」と静かに息を引き取った。春のことだった。僕はそれを最後の仕事だとばかり老いた身体を酷使した。"世界で一番の結婚式を"それだけだった。(ウェディングドレス風の)エンディングドレスに二人の墓の手配、家族に理解を示してもらうのに一番苦労した。そして、今日が彼らの結婚式だ。参列者は僕1人。
他には誰もいない。けれど、幸せだった。さあ、彼らが呼んでいる。

「今、いくよ。」