アルメリア

Open App

〘誰もがみんな〙
 「あの子になりたい。」
 小学生の頃、彼女といっしょのクラスになった女の子たちは口々にそんなことを言った。当時、私だけその子を知らなかったので、「あの子ちゃんって、誰?」と聞いたしまったのは苦い思い出ではあるが、とりあえず彼女はみんなの注目の的だったらしい。
 曰く、かつての天才ピアニストの子供で全国コンクールで最優秀賞をとったとか、模試も上位の成績を修めているだとか、ハリウッドの映画監督が彼女を見初めたとか、はたまた武道の心得があり、不審者を撃退しただとか、私たちとは世界線が違うレベルの優等生だった。それだけでも、へぇ~と感心したものだけれど、女子の眼中にあるのは別のことらしかった。当時、クラスにK君という(周りとは格が違う)イケメン優男がいたのだが、彼がその子(仮にNちゃんとしよう)を一頭気に掛けていたらしい。
それが羨ましいのだとか、綺麗でお似合いだけど気に食わないのだとかよくそんなことばかり言い続けられるな、と密かに考えていたのは覚えている。


 数日後、宿題を取りにに教室へ戻ろうとすると、中にNちゃんの姿を見かけた。声をかけようとしたけど、いつもと違う鬼気迫るような表情をに恐怖に感じて、私は思わず後ずさって逃げた。途中の廊下でK君にぶつかってしまった。彼は謝罪の後にNちゃんの場所を聞いてきた。私は疑問に思いながらも答えた。その後のことは知らない。宿題は忘れた。

 次の日からNちゃんはいつも通り、ニコニコした優等生だった。彼女の身体に傷は一つも見当たらない。

 人はみな、誰しも言えないことがあるのだと思った。

2/10/2024, 1:04:20 PM