カーテン
ふと夜中に目が覚める。ベッドの隣にいたはずの温もりはなくなっていて、あるのはぽっかりと空いた空間だけ。トイレにでも起きたのだろうかと、微睡の中ぼんやりと考えた。
夏の夜、冷房の効いた部屋は涼しく管理されていて、寝苦しいなんてことはない。寝室の横、リビングからカタリと音がして、気になった末だるい体を起こしてリビングへと続く扉を開けた。
ベランダへの窓が開く音だったのかと、ぬるい風にレースカーテンがはためく姿を見て思った。ベランダには夜空を背景にタバコを吸う男が1人。ぷかぷかと煙を吐き出しては輝く星を眺めていた。数歩近づくと、ペタペタという足音で気付いたのかこちらを振り向いては「来ちゃダメ」と吸いかけだろうタバコを消す。
「…子供扱いしないで」
「タバコなんていいことないんだから」
そういう彼はタバコを辞めない。でも私の前でも吸わなかった。
ベランダへと並ぶと、少しだけタバコの残り香を感じた。
青く深く
色々な魚が泳ぐ水槽、その中の一つにクラゲの水槽があった。ぷかぷかと泳ぐ姿は海で見るものと違い、ライトアップされた姿が美しくどこか神秘的にも感じられる。
綺麗で自由で、どこか儚い印象を受けるそれを眺め、また次の水槽へと足を運んでいく。隣にいるあなたが、気まぐれにどこかへ行ってしまわないようにと強く手を握った。
夏の気配
先日までの雨模様が嘘のように快晴が続いていた。ニュースでは観測史上最も早い梅雨明けだと連日報じられている。空には入道雲が浮かんでおり、なんとも夏らしい景色だ。
夏の気配を感じる前に、夏が怒涛に押し寄せたような暑さを感じる。そんな中、クーラーをガンガンに効かせた部屋から一歩も出ない私のような人間がいても悪くはないだろう。
まだ見ぬ世界へ!
彼の手を掴めばいいだけ。彼が向かう先には楽しい日々、輝かしい未来が待っているような、そんな気配を感じる。それでも自分の環境が変わることに怯えて、足を踏み出せないのは自分だ。
最後の声
最後の声、その声は届かなかった。直後の大きな破裂音にかき消されたのだ。あたりには静寂が漂った。
その姿を目にした時、手を大きく伸ばしたがうまいこと動かないことに気づいて、ふと見ると自分の手のひらは真っ赤に染まっていた。
全部が上手いこと動かないことに気づいて、よく見ると自分の身体中あちこちと血が滲んでいた。痛みなんてもうとうに感じなくなっていた。なのに、頭はぼんやりとしてきて目の前が黒く塗り潰されていく感覚に、必死に両目をこじ開けようとするも意思に反して閉じていく。
届かない手を伸ばす。
君は最後何を伝えたかったのだろう。