#君の奏でる音楽
【河川敷のあの曲】
あの人はいつも夕暮れ時の河川敷でギターの練習をしていた。
あの人を見かけた最初の頃は、お世辞にも上手とは言えなかったが、毎日練習しているうちに別人かと思うほどに上達していた。
調べても出てこない、謎の曲
でも不気味なんかではなく、心安らぐ静かな曲
俺はいつも、名前も顔も知らないあの人の奏でる
その曲を聴きに河川敷に通っていた。
だけど、ある日を境にあの子の姿が見えなくなった
名前も顔も知らないあの子と曲を探せるわけもなく
ただ曲を思い出しては、また聴きたいと願う。
自分で弾けばいい
そう考えた俺はギターを買って、あの河川敷へ行きあの人と同じ場所であの曲を思い出しながら弾く。
だが、俺もギター初心者なわけで曲は覚えていても全く弾けなかった。
それから毎日、俺は同じ河川敷で同じ曲を練習することにした。
#ここではないどこか
【逃亡】
やらかした
どうして ミスをしてしまったのだろう
それよりもだ
なぜ私は走って逃げているのか
ああ 追いかけて来ている
諦めて逃げるのを止めるか?
いや 後悔してももう遅い
卑怯だとか言われても 気にするものか
逃げるしかない 逃げなければ
ここではない どこか遠くへ
#相合傘
【太陽】
放課後の昇降口、好きな人が何やら困っている様子で外を眺めていた。
今日の天気予報では夜から雨が降ると言っていた。
彼女は夜に降るならと傘を持ってこなかったらしい
彼女とは帰る方向が同じだし、仲良くなるチャンスかもしれない。
私は傘を片手に彼女に話しかけた。
「傘、1本しかないけど…入る?」
彼女は安堵の表情を浮かべたが、すぐにハッとして申し訳なさそうに私に一言
「いいの…?」
と聞いてきた。
「もちろん」
私がそう笑顔で答えると、彼女の表情は明るくなり
太陽のような眩しい笑顔で
「ありがとう!」
と言った。
帰り道、
彼女を私の右側を歩かせ、私は道路側を歩く。
当然、彼女が濡れないようにと傘を持っているから私の左肩はビショビショ。
車が通る時、水しぶきが足元にかかるので、ほぼ傘をさしていないみたいだ。
でも、そんなのはどうでもいい。
隣を見ると彼女がいる、とても近い。
彼女も時々私の方を見て話しかけてくれる。
目が合うと、ニコッと笑うので私の顔は赤くなる。
「可愛い…」
心の声が漏れてしまった。
そっと彼女に目をやると、彼女は手で口元を隠していたが、耳が少し赤くなっていた。
私は立ち止まり、彼女を見ずに言う。
「私、先行くね…!傘は持って帰っていいから!」
彼女に傘を渡し、家まで走る。
傘を持たない私に、雨は容赦なく打ち付ける。
傘を渡し、先に帰ったことを彼女はどう思うだろう嫌な奴だと思われていませんようにと願い走り続けようやく家に着いた。
翌日、昨日の雨がなかったかのように空は晴れた。だが、空と対になるように私の心は曇っていた。
昨日の帰り道で走りながら考えたことが頭から離れない。
彼女に嫌な奴だと思われていないだろうか…
だが、気にしていても仕方がない。
私は支度をして玄関の扉を開けた。
そこには、私の傘を持った彼女がいて私を見るなり駆け寄り、傘を渡して言った。
「傘、ありがとう。濡れずに帰れたよ」
それは良かったと思った瞬間、彼女に手を握られた突然の事に驚いていると、彼女は太陽よりも眩しい笑顔で私に言う。
「一緒に学校行こう!」
私の雲がかった心は、彼女の一言で雲一つない快晴になった。
#1つだけ
【願い】
1つだけ願いが叶うなら…
一生使いきらないくらいのお金がほしい
そのお金で豪邸を買って、一生遊びたい
ただそれだけ
#もっと知りたい
【俺の彼女】
街で出会った彼女に恋をした
とても親切で、笑顔が素敵
彼女と仲良くなりたかった
彼女の好みを知って自分磨きをした
彼女の好きな男の仕草とか
彼女と話す機会があって、たくさん話した
でも、彼女の声が美しくて話が入ってこなかった
もっと話がしたくて彼女にプレゼントをした
彼女はシャイだから返事やお返しはくれなかった
だけど、渡すたびに涙を流して喜んでくれた
彼女にプレゼントを渡してから3ヶ月と13日
彼女に男がつきまとうようになった
その男は、彼女の職場の先輩社員だった
毎晩のように彼女の自宅までつけていた
彼女のストーカーなんて許せない
深夜に男を人通りの少ない橋に呼び出した
思っていた通り、すぐに来た
彼女のストーカーはお前だな
言おうとした言葉を男が先に言った
男がポケットに手を入れたから
こいつはナイフを取る。ととっさに思った
震える手を伸ばして首を掴んだ
掴みが甘かったのか手を離されてしまった
逃げられてはいけないと思い、男を突き飛ばした
そうすれば、男が転んで時間を稼げると思った
でも、男は橋から降りてしまい
川を下って逃げてしまった
近くに男のスマホが落ちていたから
男のスマホで彼女に電話をした
彼女は安心した声で電話に出た
彼女に脅威は去ったと教えたくて言った
大丈夫、この電話の男はもう君の前には現れない
俺が君を守るからね
だから、もっと君のことを教えて