はじめ

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7/25/2024, 7:32:58 AM

【友情】

 もう、このまま動きたくなかった。
 泣くことも叫ぶことも、自分で終わりにすることも、出来ないまま、ただうずくまる。
 全てが恨めしかった。

 蒸し暑い。窓の外はあまりに強い光が満ちていて、でも部屋の中は薄暗い。布団に横たわって、携帯で時間を見る。辛うじてまだ午前、しかし朝というには遅すぎる。空腹を感じたので、部屋を出よう。家人が多分何か、食べるものは残してくれているだろう。そう思って、上半身を起こす。と、手にした携帯が鳴った。受信。
「俺俺!暇?」
 聞こえてきたのは、長年の知人の、やや大きい声。
「詐欺か」
「やだなー分かってるでしょ。飯行こーぜ」
 毎度のごとく、遠慮がない。
(でも)
「今起きたから、家出るの時間かかる」
 言うと、
「待つし」
 見えないけど、笑顔だろうと思える声。
(その声が)
(助かる)
「着替える」
「せくしーなの頼むわ」
 ふざけた声の後に切れた通信画面を見て、携帯を置いて、カーテンを開ける。強い光、でも耐えられる光。
(もう少し、耐えてみるか) 
 思えたのは間違いなく、さっきの声。
 立ち上がり、タンスに向かう。少しでもせくしーな服を選ぶために。

7/22/2024, 7:41:36 AM

【今一番欲しいもの】

「お前は…何のために俺を倒す?」
目の前、息も絶え絶えな悪の首領が、そう問いかける。死にかけなのは、自分がとことん叩きのめしたからだ。
「何のため?」
「何が望みだ?金か、権力か、それとも」
「お前に教える義理はない」
無理矢理話を断ち切り、そいつの首もとに止めの一発。

(終わった、か)
外には、青空が広がっている。建物の中は血まみれだけど。自分のコートの中も。
ふぅ、とため息をついて、自分は歩き出す。
「欲しいもの、ねぇ」
歩きながら、一人呟く。金はある。だいたいの物は手にいれた。第一、自分は物欲はあまりない。それでも、何かと答えるならば。
「無事に、明日を迎えられる保障、かなあ」
欠伸一つ。さっさと寝床に帰って寝よう。
何事もなく、明日になるよう願って。

7/21/2024, 3:56:55 AM

【私の名前】


名乗るためではなく。
呼ばれるために。

7/20/2024, 2:06:30 AM

【視線の先には】

真っ直ぐに、前だけを見ている、その人を私はただ見る。
倒すべき敵を見据えて、他の事は些末な事と切り捨てて、だから私がいてもこちらを見ることはない。
自分の幸せも願望も、全て無いようなふりをしているから。
「何、考えているんですか?良かったら話してみて下さい」
顔を覗き込んでそう聞いてみる。でも、
「お前には関係ない」
(それはそうでしょうけど)
あまりにあっさりとそう言われるから、
「流石にそれは、寂しいですよ」
そう言うと、やっとこちらを向いてくれる。
(やっと視線の中に入れた)
微笑むと、また視線を逸らす。
(この人の視線の先には、私はいない)
それを知るのが怖いから、何度でも、話しかけるのだ。顔を覗くのだ。
どうか、いつか、死ぬ前でも良いから、この人の視線が、私に向いてくれるよう願って。

7/19/2024, 2:36:47 AM

【私だけ】

「おはよー」
普通に挨拶したのに、クラスのみんなは私を見ていない。後から入ってきた男子、更に遅れて来た女子には挨拶を返しているのに。
授業が始まっても。
「はい、ではここ分かる人?」
そんな風に先生に聞かれて、何人か手をあげる。だから私も一緒に手をあげる。でも、
「じゃあなた」
絶対に、こちらを見ていない先生の視線。
昼休みも。
「腹減ったー」
「今日購買で買ってくる」
「やべー委員会の呼び出し来た」
そんな言葉と供に、教室内を移動する人々。私の前を、まるでいないかのように通り過ぎ、そしてこちらを見ることもない。
私だけ、ここにはいないようだ。


「この教室、ちょっと寒くない?」
「『いる』って話だよ?」

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