はじめ

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【友情】

 もう、このまま動きたくなかった。
 泣くことも叫ぶことも、自分で終わりにすることも、出来ないまま、ただうずくまる。
 全てが恨めしかった。

 蒸し暑い。窓の外はあまりに強い光が満ちていて、でも部屋の中は薄暗い。布団に横たわって、携帯で時間を見る。辛うじてまだ午前、しかし朝というには遅すぎる。空腹を感じたので、部屋を出よう。家人が多分何か、食べるものは残してくれているだろう。そう思って、上半身を起こす。と、手にした携帯が鳴った。受信。
「俺俺!暇?」
 聞こえてきたのは、長年の知人の、やや大きい声。
「詐欺か」
「やだなー分かってるでしょ。飯行こーぜ」
 毎度のごとく、遠慮がない。
(でも)
「今起きたから、家出るの時間かかる」
 言うと、
「待つし」
 見えないけど、笑顔だろうと思える声。
(その声が)
(助かる)
「着替える」
「せくしーなの頼むわ」
 ふざけた声の後に切れた通信画面を見て、携帯を置いて、カーテンを開ける。強い光、でも耐えられる光。
(もう少し、耐えてみるか) 
 思えたのは間違いなく、さっきの声。
 立ち上がり、タンスに向かう。少しでもせくしーな服を選ぶために。

7/25/2024, 7:32:58 AM