【恋物語】
それはまるで、栓を開けてない炭酸飲料の瓶みたいなもので。
『自覚』という栓を開けてしまったが最後、一気に細かな粒が底から沸き上がるのだ。
きらきら。
きらきら。
輝いて、止まらない。
飲み干そうと口をつけたら、普通に飲み干せる時も、げっぷとして仕方ないけど少々見苦しい時もある。
でも。
全て飲み干して、その余韻を楽しむ時、それはとても綺麗なのだ。
それが、恋物語。
【愛があれば何でもできる?】
大好きなのだ。
彼女の顔、声、こっちを向いて話す時の髪の香り、繋ぐ手の暖かさ。
でも。
「駄目?」
「いくらお前の望みでも、流石に無理」
「でもさあ」
花のような綺麗な顔で。小首をかしげて。
「可愛いと思うんだけど。スカート」
「駄目!」
目の前にはピンクと白のフワフワスカートと、リボンいっぱいのブラウス。ヒラヒラのついたカチューシャも合わせて、
「私の事好きなら、やってくれるって思ったんだけどな」
「好きだけと大好きだけど、無理!」
勢いで叫んでいた。
【後悔】
気付いた時に、捕まえておけば良かった。
どうしようもなく恋い焦がれて、その事しか考えられない日々が続いていて、周りで話を聞く度に、一瞬でも視界に入る度に、胸がドキドキと高鳴った。
後悔なんてしたくない。
今日こそ、手に入れる。
「うめー」
「旨いか、限定ドーナッツ」
「うまうま。金欠だから、ずっと買えなかったんだよなー」
【風に身をまかせ】
荷物はまとめた。もう、この部屋は引き払ってしまうので、家具も何もない。
(やってみたかったんだよな)
風の吹くまま気の向くまま、ってやつを。
二、三年は贅沢しなければ生きていけるだけの金はある。必要な荷物も、鞄一つにまとまるだけ。
「さて」
声に出したのは、残っている少しだけの未練を振りきる心。
靴を履いて、玄関のドアから外に出て、鍵を閉める。これから鍵は不動産屋に返しに行く。他の予定はない。
歩き出すと、ざわっ、と近くの木々が風に揺れた。その吹く方向に、歩き出す。
【モンシロチョウ】
真っ白な蝶が、目の前を飛んで行く。もう暖かな時季なのだと教えてくれる。
だから、縮こまっているわけにはいかないのだ、活動しなければ。
「とかなんとか言って、相変わらず布団にこもってるじゃん」
「春眠春眠」
暖かな日差しを浴びて、白く輝く蝶になるのは、もう少し後。